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元教育長の子育て歳時記

第9回・夏 感じる心、表現する面白さを俳句で楽しむ夏に 学研教育総合研究所 客員研究員 高橋良祐


(写真提供:学研・写真資料センター)

今年も、子どもたちの季節である暑い暑い夏がやってきた。

私は、真っ黒に日焼けした顔に真っ白な歯を見せながら笑顔いっぱいの子どもの表情ほど夏のイメージにぴったりなものはないと思っている。そのほか夏のイメージとしては、海水浴や山登り、ハイキングやキャンプ、昆虫採集や魚とり、スポーツや合唱・吹奏楽の合宿や大会などたくさんの楽しい光景が目に浮かんでくる。子どもたちが楽しみにしていた夏休みを事故もなく多くの体験をし、満足感いっぱいの数々の思い出を作ってほしいと願っている。

また、夏の期間、子どもたちに取り組んでほしいことがある。それは感性を磨くこと。感性とは一人一人の個性に応じた感じる心のことであり、別の言い方をすれば、ものの見方やとらえ方、自然や生活の場、あるいは人の気持ちにふれたときの自分の心の動き方のようなものではないかと思う。感性を磨くことはものの見方や考え方を豊かにしてくれると、確信している。

では、どうすれば感性を磨けるのか。なかなか、そのものずばりの答えは導き出せないのだが、何かしら活動しなければ磨くことはできないのではないか。感性とは外界の刺激に接したとき、直感的に感じ取る心の力だとすると、感性を磨くには自ら外の世界に出ていかねばならない。すなわち、さまざまな体験を重ねることだと思う。

現代の子どもたちは忙しいと言われている。その通りだと思うが、夏休みの間にぜひ日頃は体験できないことにチャレンジしてほしい。そして、体験したときの心の動きを作文や絵、ときには、国語の時間で学習した短歌や俳句で表現することに挑戦してほしい。

特に、俳句は四季折々の情景を自分の感性のままに選び抜いた一語一語で紡いでいく一番短い詩であり、子どもたちにとっても作文などより、取り組みやすいのではないだろうか。

一人一人が感じたままに五・七・五の十七音で自由に表せばよいので、夏休みはさまざまな季語を考えながら詠む材料を選ぶには事欠かない。私は全くの俳句の素人だが、俳句のよさはいつでもどこでも、自分の感じたままを自由に素直に五・七・五のリズムに合わせ表現できるところにあると思っている。

目の前で見えた風景や楽しかった体験、関わり合った人との思い出などを、一人一人が自分の心と体で感じたままに、自由に楽しく表現するのが俳句だとすれば、うまいだの下手だのといった他人の評価はいらない。まずは表現を面白がって十分楽しめばいい。自由に楽しんだ俳句の中には多くの共感を得られる句もあるだろう。でも、最も大事なことはまず自分が楽しむこと。そして、友だちと楽しみ合えれば、さらに俳句作りが面白くなってくるかもしれない。

楽しかった体験を家族みんなで表現するのも面白い。様々なことに関心を持ち、そして感じる心を持つこと、そして感じたことを素直に表現する俳句づくりは子どもたちの生き生きとした豊かな感性をはぐくむ価値ある活動となるだろう。

私自身の感性には誠に自信は持てないが、興に乗って私も一句作ってみるのがコラムを書いた責任か。

おさなごと 庭のプールで みずしぶき
(初孫との水遊びを 存分に楽しんだ じいじの心)

夏の夜に 登る竿燈 見上げる子
(竿燈祭りで目にした 大人の技のすごさに憧れの心を持つ 少年の眼差し)

夏期講座 汗だくだくの 聖(ひじり)坂
(きつい坂道と猛暑の朝、学びに行く教師の姿 港区三田の聖坂と聖職とを重ね合わせて)

説明しなければ分からないようでは感心しない。しかし、自分が楽しめればそれでよいことにして今回の結びとしたい。

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高橋 良祐(たかはし りょうすけ) 1953年栃木県生まれ 学研特別顧問、学研教育総合研究所客員研究員
高橋 良祐

東京学芸大学教育学部数学科卒業後、小学校教諭に。東村山市立秋津東小学校、世田谷区立東大原小学校を経て、町田市立鶴川第三小学校の教頭に。その後、中央区教育委員会・指導主事、港区教育委員会・指導室長、東村山市立化成小学校校長職を経て、港区教育委員会の教育長に就任。教職経験を生かし、ICTや英語教育、国際学級など、教育改革に取り組む。2012年10月に退職。

2013年4月から、学研ホールディングスの特別顧問、学研教育総合研究所の客員研究員に就任。豊富な経験から適切なアドバイスなどを発信している。

おもな著書(共著):
「新しい授業算数Q&A」(日本書籍)
「個人差に応じる算数指導」(東洋館出版)

写真撮影:清水紘子 (イメージ写真を除く)

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