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文部科学省「英語教育の在り方に関する有識者会議(第2回)」取材レポート

(取材:学研教育総合研究所 佐々木孝明)


文部科学省玄関

現在、小・中・高等学校を通じた英語教育全般の抜本的充実を図るための動きが加速している。文部科学省は、2013年12月13日に「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」を策定し、本年3月には、同計画を具体化することを目的として「英語教育の在り方に関する有識者会議」(座長:吉田研作・上智大学教授)を設置した。3月19日(水)、同会議(第2回)が開催されたので、その模様を取材した。

同日の会議の議題は、主に、(1)有識者会議における検討事項、(2)小中高等学校を通じた英語の教育目標、についてであった。


12月13日に公表された提言「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」の1ページ

会議の前半、議論の焦点になったのが、英語教育の早期化を図ることの根拠や意味をどう考えるかについてであった。まず吉田座長と大津由紀雄委員が、言語習得環境における研究成果について言語学的・脳科学的な知見を紹介した。それによると、「いわゆる臨界期仮説(臨界期とよばれる年齢を過ぎると言語の習得が不可能になるという仮説)は母語習得に関するもので、日本のような第2言語・英語環境ではあてはまらない。」「聞き取りと発音に関しては中学校以上で学び始めた生徒より、それ以前に学び始めた生徒の方が上達する可能性はあるが、文法力や語彙習得に関しては年齢と無関係。」とのことであった。

その後の委員間の議論では「それでは文科省が英語教育の早期化を推進する根拠は何か。実施計画での大きな変化は小学5年生から英語を教科にすることだが、何のために行うのかを明確にすることが必要ではないか。」との指摘がなされた。これに対し、座長が「学習開始年齢と英語に対するモチベーションは大いに関係がある。早期に学習を始めれば、聞き取りと発音の上達によってモチベーションの向上につながる可能性が高い。」と答えた。

他の委員からも、「高校卒業時点での英語力を向上させるためには、小学校から始めて全体レベルの底上げを図ることには意味がある。」「少なくとも英語に対してたじろがない態度の育成には早期からの学習が有効。」「教育産業の動きや大人の意識の変化など、社会に対するインパクトも大きく、それが子どもたちにも良い影響を及ぼすはずだ。」など、早期教育の有効性を強調する発言が多く出された。一方、「社会の一般的な受け止め方として、小学校より英語を勉強し始めれば英語力は身につくはすという過剰な期待感がある。実際にはそうならない可能性もあるので、そのあたりを国民によく知ってもらわないと逆効果になる恐れがある。」との意見も出た。文部科学省としては英語の早期学習についての国民合意を得るためにも、その目的や趣旨について適切な説明が求められよう。


文部科学省HPの外国語教育「小学校外国語活動サイト」

次に議論されたのが、文科省が作成した「能力記述文の形で設定した国の学習到達目標(試案)」(いわゆるCAN-DOリスト)についでであった。この試案は、前述の英語教育改革実施計画でも提起された「小中高等学校を通じた英語の教育目標の設定」に向けて作成されたものである。

試案については、「当初は単なる指標という位置づけだったはず。それが目標となり指標が達成されるべきものというように自己目的化してしまう懸念がある。」、「目標が至上主義化し小学校現場でスキル偏重主義に陥ると問題だ。」、「学校の校長としては、CAN-DOリストに基づいて英語の教員をどのように育成するかが課題である。」「CAN-DOリストと実際に使用される教科書の単元とはズレがある。」、「試案について各学校で十分に議論する時間が必要だということを考慮して進めてほしい。」、「リストの内容について生徒にも知っておいてもらうことで、教員の質の確保・向上にも役立ててほしい。」などさまざまな意見が出された。

他にも、「英語に関する大学入試問題が<読む>と<書く>に偏っていて問題だ。その偏りが将来的に中学入試レベルまで下りてくる。例えば中学入試で英文法の問題が中心になると、小学校での英語教育も偏ってしまう。大学入試改革は必須である。」といった意見が出された。この意見については、欠席した三木谷浩史委員も同様の趣旨から、「入試改革に関する小委員会」の設置を書面で提案している。現状の英語教育に入試などの試験がどのような影響を及ぼし、試験を変えることでどのような効果があるのか、文部科学省としても十分に検討することが必要であろう。


文部科学省庁舎

同会議は、今後、月1回ペースで開催され、小学校における英語教育の在り方、教材の在り方、指導体制の在り方、などについて議論され、秋頃めどにとりまとめがなされる予定である。

*注 有識者会議 委員名簿

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