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CEC成果報告会「平成25年度教育の情報化推進フォーラム」取材レポート

(取材:学研教育総合研究所 佐々木孝明)


角野栄子氏は特別講演で自らの体験を熱く語った
コミュニケーション力の育成にICTが有効であるとの分科会報告があった

教育現場や家庭へのICTタブレットの導入やデジタル教材の活用事例の増加に見られるように、教育の情報化に関する動きが活発になり、人々の関心も急速に高まっている。そうした中、一般財団法人コンピュータ教育推進センター(CEC)主催のイベント「平成25年度教育の情報化推進フォーラム」(共催:一般社団法人日本教育工学振興会(JAPET)、なお、CECとJAPETは本年4月より合併)が2月28日(金)と3月1日(土)の2日間にわたり、国立オリンピック記念青少年総合センターにおいて開催された。

「スマホ時代の学びと冒険」をテーマとした今回のフォーラムでは、同財団の事業の報告をはじめ、ICT利活用についての先進的な実践事例や、タブレット・スマホなどの光と影についての研究、企業による情報化関連機器の紹介、など多彩な企画が用意されていた。全体会および分科会の各会場はどこも立ち見が出るほどで、企業報告会や展示スペースなどでも多くの来場者で賑わうなど盛況なフォーラムだった。

開会式に先立って行われたオープニングでは、『魔女の宅急便』著作者の角野栄子氏による特別講演「魔法は一つ」が行われた。角野氏は、自身の若い頃のブラジルでの苦しい生活や『魔女の宅急便』執筆体験を基に、言葉やコミュニケーションが暮らしに直結していること、デジタル教材でも何でも何か新しいこと・面白いことに興味を持つことの大切さ、自らの身体を通じて感じ反応したことの大切さ、一つの道具(魔法)をいろいろと工夫することの意味、物語(想像力)の力の偉大さ、などについて強調し、ICT教育を考える上での重要なヒントを与える内容だった。

開会式では、同財団の赤堀理事長よりフォーラム開催の趣旨が述べられた後、経済産業省、文部科学省、総務省それぞれの担当責任者から来賓挨拶があった。経済産業省からはICT産業活性化の観点からのICT教育の重要性、文部科学省からは教育行政に占めるICTの位置づけと目的、総務省からは学校・地域・家庭・世界をつなぐことの重要性、などが述べられた。続いて行われた基調講演では、「教育の情報化について」と題して現在政府が進めている教育情報化の施策と方向性について文部科学省生涯学習政策局情報教育課の大内克紀専門官が話を行った。


別の分科会会場では約30もの多様なICT活用実践事例の発表が行われた

企業展示ブースではさまざまなICT最新機器やツールが紹介された

初日に行われた4つの分科会の中では「21世紀型コミュニケーション力の育成とICT活用」を傍聴した。中川一史・放送大学教授がコーディネーターとなり、村井万寿夫・金沢星陵大学教授、佐藤幸江・同教授、佐和伸明・柏市教育委員会指導主事、山本朋弘・熊本県教育庁指導主事の4名それぞれが学校現場で実践してきたICT活用事例を紹介・報告し、そこから今後求められる21世紀型コミュニケーション力とは何かについての検討・討論が行われた。

まず、村井氏は、21世紀型コミュニケーション力に関する概念整理を行い、段階的な能力表の作成の試みを紹介した。その中で、対話、交流、討論、説得・納得、という4つのプロセスが大切であることを強調した。続いて、佐藤氏が「ひと」の面に焦点をあて、ペア学習によって他者との関わりの中で自分の意見を作っていくこと、そしてその際の明確な課題設定と最適解に近づくための教師による支援の重要性を指摘した。佐和氏は「もの」の側面からICTタブレットの有効な活用法を探り、撮影によって証拠や根拠を示しながら説明・説得を行うことが重要である旨報告した。最後に、山本氏は「こと」の面から、教師に対する研修の実施とその実践への応用の大切さを強調した。本分科会での議論を聞いて、コミュニケーション力の育成にあたってはICTの特性をよく理解したうえで活用すれば大きな効果を発揮することが実践事例の紹介を通じてよく伝わった。

他にも、ネット社会の影(負の側面)ともいえる「つながり依存」の問題を考える分科会や、情報モラルをいかに指導すべきかを探る分科会、など多様化するツールにいかに対応するかといったICT教育を考える上で不可欠な課題についても活発な議論が行われていた。本イベントでの成果が教育現場や社会に着実に普及していくことを期待している。

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