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スペシャル インタビュー

特別企画 明治大学学長・土屋 恵一郎先生に聞く 大学はどこに向かうのか <後半> 明治大学学長・土屋 恵一郎

少子化や東京23区内私立大学の定員抑制等、私立大学にとって厳しい風が吹きすさぶ中、受験生からの絶大な人気と毎年10万人以上の受験者数を誇る明治大学。そのリーダーである明治大学長土屋恵一郎先生に大学入学前・卒業後の教育、能に学ぶ教育方法についてお話しをうかがった。

大学入学前の学びと卒業後の学びについて

──日本の高等学校までの教育についてどう思われますか。
土屋以前、シンガポールの学校において見た光景なのですが、6人くらいの学生が座っており、先生がその周りを歩きながら授業をしていました。学生は教師の説明を理解するとクリッカー(受講者からの回答を瞬時に収集する道具)を押すシステムになっており、みんなが理解したところで授業が進みます。
実は、これに似たことを日本の小中高はすでに行っています。日本の小学校・中学校・高等学校はアクティブラーニングの先駆者であり、その教育も優れています。
高等学校までの教育の質の高さが、日本の教育を支えているとも言えるでしょう。
ぜひ今の教育のレベルを維持していただきたいと思います。

そして大学に対して言いたいのは、今のままだと優秀な学生は海外に行ってしまうということです。競争相手は日本の大学ではなく、アジアやアメリカの大学なのです。日本の大学同士が連携することはもちろん、海外の優れた大学とも連携し、両方のディグリーを取得できるような体制を取るなど、もっと日本の大学自身が魅力を持つようにならなければいけません。

大学に入るまでに身に付けておくこと

──小学生、中学生のときにやっておいた方がいいことはあるでしょうか。
土屋もうすでに行われていますが、アクティブラーニングをどんどん進めていただきたいですね。そして、もう1つ・・・小学生の頃に多くの読書体験をしてほしい。ということです。iPad/Kindleなどの電子書籍でもいいから、小さな頃から読書をしてほしいのです。生きていく上で重要な「基本的な教養」は読書で養われます。成功している企業経営者は読書家が多いです。そして教員のみなさんには、日本や世界の歴史など、知識のアーカイブに子どもたちがアクセスするためのファシリテートをしていただきたいのです。受験勉強や英語教育も確かに大事なのですが、読書によってもたらされる、「知的財産にコミットできるようなチャンス」「人間が長い歴史の中で何を考えてきたかに接するチャンス」を子どもたちに与えてほしいと思います。

能に学ぶ教育方法

──土屋先生は、多数の書籍、特に能楽に関する書籍を執筆されていらっしゃいますね。『処世術は世阿弥に学べ!(岩波アクティブ新書 2002年)』を読んで刺激を受けました。世阿弥は、600年前に教育の原点のような話をしていたのですね。
土屋能はもともと「ものまね芸」でした。これは能に限らずギリシャ以来、演劇全般を通して言えることです。演劇に限らず「まねる」・「似せる」という行為は、ものを考え、行う際に大事な役割を果たします。最初は先生をまね、そこからだんだんと離れていくというプロセスが大事なのです。最初から自己流で行うのではうまくいきません。先生というロールモデルに「似せる」プロセスがあるからこそ、個性が出てくるのです。
社会人になるまでに行うべきことは、「こういう人になりたい」という自分の人生のロールモデルを探すことです。そのロールモデルを模倣しながら、どこかでそれを超えるものを自分の中から見つけ出し、最終的に(ロールモデルを)追い越していく。これが成功するためのプロセスです。
ただ、「自分を模倣すること」は決してしてはいけません。自分の成功体験に縛られ、模倣し続けていたら、いつまでも自分を超えることはできません。自分自身のコピーで終わってしまいます。
しかし現代の日本には、学生がロールモデルにしたいと思うような存在がいなくなってきていますね。このままだと教育のポテンシャルが低くなる可能性が危惧されます。
──現代の子どもは、「ああなりたいけど・・・なれない。」とあきらめが早い気がします。
土屋高校までの段階でロールモデルを見つけるのは難しいかもしれません。これは明治大学OBの話ですが、アフリカで中古車販売を行い、成功した人がいます。その方はアフリカの中古車市場を掴みつつあります。現代にもこのようにエネルギーのある人がいるのです。こういったOBの姿を見て、学生が将来を考えてくれたら面白いなと思います。いろいろな体験をしている人がいて、いろいろなロールモデルがいる・・・これが大学だからこその面白いところです。
自分をまねない、自分の成功体験をコピーしない、「自分」から一歩はみ出していく、これが人生において大事なことです。
やはりそれをするためには、読書をすることです。自分とはちがう人間の書いたものをどれだけたくさん読んで学ぶか、これが自分を超えて、人と違うことをやる勇気を得るカギです。

リカレント教育

──文部科学省の審議会などで「リカレント教育」という言葉が聞かれるようになりました。
土屋文部科学省は、東京23区内の私立大学の定員抑制を発表しました。この方向性には反対です。ただ、社会人学生や外国人留学生に関しては、定員増員を認めています。それなので明治大学は、女性の仕事復帰・キャリアアップを支援する、スマートキャリアプログラムを始めました。大学が、女性のライフキャリアを取り戻すための場となるのです。たしかに現代は男女平等の社会ですが、出産など女性の負担はやはり大きく、どうしても男女でキャリアプランは変わってきます。女性がそういった負担やバリアを超えて、キャリアプログラムを遂行するためにはどうしたらよいのか。女子教育に大きなポジションを占めてきた歴史と経験を強化して、こういった女性のリカレント教育に関わっていきたいと考えています。
──多様な学びといったキーワードを使われていらっしゃいました。
土屋これからの時代は、学校だけでなくどこにいても学べる環境が必要だと思います。
しかし、ただPCを渡してどこでも学べる・・・というのではなく、やはりVRなどのメディアを用いた、児童・生徒・学生が引き込まれるような魅力的なコンテンツを作ることが重要です。大学に入学してくる高校生を対象とした事前授業もオンラインで・・・となるかもしれませんね。
──貴重なお話をありがとうございました。最後に一言いただけますでしょうか。
土屋能や狂言などの日本の伝統芸能は、祖父が孫に稽古をつけることが多いのです。なぜなら関係性が近い父が教えると、どうしても教え方がきつくなってしまうからです。
最初からあまりに厳しく稽古をされてしまったら、嫌いになったり、飽きてしまったりしますよね。
教師も同じです。うまくおだてながら導くことが大事。あまりにきついと学ぶことがいやになってしまいます。そして、学ぶことを好きになってもらうためには、学生を惹きつけるだけのコンテンツや授業を作っていかなければなりません。最新の技術をもってすれば学ぶ人を夢中にさせるコンテンツが作れるはずです。
» 大学はどこに向かうのか<前半>
~今、この時代だからこそ求められる大学の姿~

インタビュー 栗山健/撮影 大塚恵理子/文 池内修子

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明治大学学長・土屋恵一郎(つちや けいいちろう)
土屋恵一郎

明治大学法学部卒業後、同大学院法学研究科博士課程単位修得退学。明治大学法学部専任助手を経て、1993年から専任教授。専門は法哲学。法学部長、教務担当常勤理事等歴任後、2016年に明治大学学長に就任。一般社団法人日本私立大学連盟常務理事、日本私立大学団体連合会高等教育改革委員会委員等も務めている。学外では一般財団法人観世文庫理事、特定非営利活動法人JAFSA(国際教育交流協議会)理事、一般社団法人地域伝統芸能活用センター評議員等を歴任。趣味は能観劇、古典音楽鑑賞で、著書に『怪物ベンサム』(講談社学術文庫)、『能-現在の芸術のために』(岩波現代文庫、芸術選奨文部大臣新人賞)、『NHK「100分de名著」ブックス 世阿弥 風姿花伝』(NHK出版)ほか多数