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小学生白書Web版 2011年6月調査>分析編>第1章 東日本大震災発生時の下校の全体的な傾向とその後の変化

 

遠藤宏美(宮崎大学特任助教)

1.大震災発生時の学校・子ども・家庭
(5)教師や学校の冷静で的確かつ献身的な対応を、保護者は「良かった」と評価

 では、教師や学校は具体的にどのような対応をしたのであろうか。ここでは自由記述の結果の一部を表1-1に掲載し、部分的に引用しながら紹介しよう(以下「 」内は原文のまま。なお、自由記述の( )内は筆者による補足である)。

 はじめに、明らかに「不適切な対応」があったことを記述した回答は全体の5%程度であり、その理由には「子供の下校方法がわからなかった」ことなどが多く挙げられていた。おそらく、学校が電話による連絡やメール配信を行っていたとしても、混乱して連絡がつきにくかったためであると考えられる。そのほか、「特になし」や「わからない」を除く全体の4分の3程度の保護者は、教師や学校の対応を良かったと評価しているようであった。

 良かった対応として多く挙げられた教師や学校の行動には、「すぐに机の下に隠れるように指示してくれたこと」や「防災頭巾をかぶらせ避難させた」など、子どもの安全を第一に考え、行動したことがあった。これらは子どもを預かる学校として、当然取るべき行動ではある。しかし、これほどの大きな揺れは教師の多くも経験がなかったはずであり、少なからず動揺したのではないかと思われる。にもかかわらず「(略)子供がかなり不安がっていたので、冷静に普段通り対応してくれたことがよかったのかな?と思います」という記述に見られるように、教師らは冷静な対応をして子どもたちの不安感を取り除こうとしたようであり、逆に教師が動揺していて的確な指示が出せていなかったというような評価はほとんど見られなかった。「きちんと普段の避難訓練どおりに子供達に避難させていたので、子供達も冷静に避難できていた」と日頃の訓練にもとづいた指示を評価した保護者も多かったようである。

 逆に、臨機応変に対応したことを評価する回答も見られた。たとえば、「引渡しのさいの手順がマニュアルとしてあったのだけれど、それを省いて渡してくれたことは良かった」、「一部集団下校もしたらしいが、確実に家にだれかいるのを確認したうえで子供たちを帰したらしく、適切だったと思う」といったことである。しかしながらこのような対応は、一方では曖昧な対応として非難されることもあり、保護者にどのように評価されるのかは紙一重であるといえよう。

 下校を始めていた子どもに対しては、「ちょうど下校時間に差し掛かり、既に校外に出ていた生徒もいたようでしたが、先生がすぐに学校まで引き返らせていた」というように、子どもを学校に戻して保護した教師も少なくなかったようである。帰宅した子どもについても「生徒一人一人が確実に帰宅できたかどうか確認してくれていた」と、心を配っていた様子が窺える。学校で保護者へ引き渡しする方法を選択せず、下校(集団下校を含む)の判断を下した場合でも、「先生が近所まで集団下校で、玄関まで連れてきてくれた」など安全に帰宅することを見届けたという回答も複数見受けられた。

 帰宅後の過ごし方についても、「この後塾に行くと言っていた子供に引率の先生が行ってはいけない、と強く言っていた」、「自宅に誰もいないとわかったら『近所のお友達のところに行くなどして、絶対に一人ではいないこと』と子どもに教えていただいた」など、子どもにもわかるように簡潔に、かつ毅然とした態度で指導したことも、保護者にとっては教師の信頼を高めることになったようである。さらに、「(学校から届いた一斉メールの内容が)近隣でひとりで遊んでいる子どもを保護してくださいといった内容で、好感がもてました」、「先生方が学校の周りを巡回してくれていたこと」など、地域の子どもや学区の安全にも配慮していた様子が窺える回答もあった。教師の気配りが、学校の中にだけあるのではないことを示す行動であるといえる。

 学校では、「ずっと子供たちと一緒だった」、「子どもたちに先生がずっとついていてくれた」など、不安を感じる子どもたちに文字通り寄り添っていたことに触れた回答もあった。「保護者が迎えに来るまで、何時になろうと子供を預かってくれるスタンス」をとり、「最終的に全員が引き渡せたのは夜中の3時半だったそうだ」などと日付が変わってもなお、学校に向かっているかもしれない保護者を子どもたちと学校で待っていた教師も少なくなかった。「遠くで務めているかたの子供は学校に宿泊させ先生も一緒に寝泊まりして心のケアーもしてくれたそうです」と、結果的に学校で朝を迎えることとなった子どもに対して心を砕いた教師の姿を記した回答もあった。しかしこのような教師の行動を当然視してよいのだろうか。多くの保護者たちと同様に教師たちにも家庭があり、家族の安否や自宅の被害が心配であったに違いない。「先生たちは自分の家庭を省みずに生徒たちの面倒を見ていた」と教師や学校に感謝し、ねぎらう言葉も見られたが、全体から見ればわずかであった。

 最後に、いくつかの印象的な回答を紹介しておきたい。「あの規模の震災で、トラブルがなかったということは、合格だと思います」、「(先生や学校の対応で良かったことは)結果的に何事もなかったこと」という記述である。保護者から見れば学校は、大事な我が子を預けている場である。保護者が学校に求めることは、問題なく安全に子どもが学校に通い、無事に家に帰ってくることであることを、あらためて感じさせられる回答であった。「あの規模の震災」で、首都圏の多くの学校で「トラブルがなかった」、「何事もなかった」ということは、果たして予想されたことであったのだろうか、それとも奇跡的なことであったのだろうか。少なくとも今回の調査結果を見る限り、多くの教師の冷静で適切な判断や指示と献身的な見守りが、子どもたちを守ったことは確かな事実であるようだ。そしてこれらの経験から、「子供が通っている小学校の教職員の方々がしっかりしていて、本当に助かったし信頼できてよかった」と、あらためて学校や教職員に対する保護者の信頼が育まれたということも、少なくないのだろう。

表1-1 東日本大震災発生日の下校に関する教師や学校の対応について(自由記述回答より)

  自由記述回答(一部抜粋、原文のまま)
不適切な対応 子供の下校方法がわからなかった
学校からの連絡ない、挙句に低学年は集団下校でなかったこと
子どもの安全確保(適切な避難指示) すぐに机の下に隠れるように指示してくれたこと
防災頭巾をかぶらせ避難させた
教室外で授業をしていた生徒は、教室に戻らず、荷物を持たずに下校させたこと
校庭の安全な場所で待機させてくれていたこと
冷静な対応 あまり慌てずに、普段通り最後まで授業、帰りの会までやって、先生付き添いのもと集団下校してきた。子供がかなり不安がっていたので、冷静に普段通り対応してくれたことがよかったのかな?と思います
きちんと普段の避難訓練どおりに子供達に避難させていたので、子供達も冷静に避難できていた
初めて経験した揺れだったが、先生の落ち着いた態度や声で、余計な不安を感じなかった様子
臨機応変な対応 引渡しのさいの手順がマニュアルとしてあったのだけれど、それを省いて渡してくれたことは良かった
一部集団下校もしたらしいが、確実に家にだれかいるのを確認したうえで子供たちを帰したらしく、適切だったと思う
保護者が来ていない子は、近所の保護者が引き取り、自宅に所在を示す張り紙をするように指示があったこと
下校中および下校後の子どもへの安全の配慮 ちょうど下校時間に差し掛かり、既に校外に出ていた生徒もいたようでしたが、先生がすぐに学校まで引き返らせていた
生徒一人一人が確実に帰宅できたかどうか確認してくれていた
先生が近所まで集団下校で、玄関まで連れてきてくれた
帰宅後の子どもへの適切な指示 この後塾に行くと言っていた子供に引率の先生が行ってはいけない、と強く言っていた
自宅に誰もいないとわかったら「近所のお友達のところに行くなどして、絶対に一人ではいないこと」と子どもに教えていただいた
地域の子ども・安全への配慮 学校からの一斉メールを知ったのは翌日でしたが、メールの内容は近隣でひとりで遊んでいる子どもを保護してくださいといった内容で、好感がもてました
先生方が学校の周りを巡回してくれていたこと
子どもたちへの寄り添い ずっと子供たちと一緒だった
子どもたちに先生がずっとついていてくれた
寒がっている子どもに服をかしてあげたこと
子どもに対する学校での献身的な保護 保護者が迎えに来るまで、何時になろうと子供を預かってくれるスタンス
最終的に全員が引き渡せたのは夜中の3時半だったそうだ
遠くで務めているかたの子供は学校に宿泊させ先生も一緒に寝泊まりして心のケアーもしてくれたそうです
先生たちは自分の家庭を省みずに生徒たちの面倒を見ていた
引き取りに来られない子供を最後まで見届けてくれたことも後日聞きました。自分のご家族のことも心配だったでしょうに・・頭が下がりました
教師や学校への信頼 あの規模の震災で、トラブルがなかったということは、合格だと思います
結果的に何事もなかったこと
子供が通っている小学校の教職員の方々がしっかりしていて、本当に助かったし信頼できてよかった