株式会社 学研ホールディングス(東京・品川/代表取締役社長:宮原博昭)のグループ会社、株式会社 Gakken(東京・品川/代表取締役社長:五郎丸 徹)が2020年3月19日(木)に発売した池上彰監修『なぜ僕らは働くのか』が発行部数50万部を突破いたしました。
未来を見据える少年の横顔が印象的なのは、池上彰監修の『なぜ僕らは働くのか』だ。2020年3月に発売されると、瞬く間に多くの人の心に刺さりベストセラーとなった。発売して2年半が経った今も書店では平積みされ、本書を買い求める大人や子どもは後を絶たない。そんな『なぜ僕らは働くのか』が第22刷、発行部数50万部に到達した。本が売れないと言われるこの時代になぜこんなに売れたのか。この本を企画・プロデュースした宮崎純氏に話を聞いた。
―『なぜ僕らは働くのか』が50万部に到達しました。いまや書店で常に平積みをされている定番のベストセラーとなっていますが、そもそもこの本を企画した理由を教えてもらえますか?
(宮崎)実は私自身が就職活動をとても苦労したのが企画の発端です。私は理系の大学に進んだのですが、その理由は文系科目より理系科目のほうがすこし得意だったから。
ただ、大学に進んだその先にやりたいことが見つからず、就職活動では理系の人が受けないような企業を受けて自分の人生の軌道を無理やり修正したんです。かなり苦労しました。面接では「理系の大学に進んだのに、なぜウチの会社を志望したのですか?」みたいによく聞かれたりして……。
ちょうどその当時に『13歳のハローワーク』(村上龍、幻冬舎)がベストセラーになっていて、キャリア教育の大切さが叫ばれ始めた頃でした。「ああ、俺が中学生のときにこういう本で将来のことを意識していたら、こんな苦労しないで済んだかもしれない……」って、恨んでいましたね。何も考えてこなかった自分が悪いんですけど。
運よくウチの会社に入社できたので、「将来への意識が低かった、過去の自分に贈るような本を作りたい」「自分みたいに苦労する若者を減らしたい」という想いは、2005年に入社した当初からずっとありました。
ただ、どんな本を作りたいかという具体的なアイデアはなかなか固まらず、形にするのはだいぶ時間が経ってからになってしまいました。「“働く”を切り口に、さまざまな情報とメッセージを図解やマンガでわかりやすく伝える本を作ろう」という方向性が見えてきたのが、入社して13年ほど経ってからでした。
―50万部というとものすごい数字です。こんなにヒットした理由は何だとお考えですか?
(宮崎)“働く”や‟仕事とは?“ということを、伝えるって難しいですよね。「お金を稼ぐために働くんだ」というのは、簡単に伝えられる1つの答えかもしれないですが、「稼げたら何でもいいんだね」「勉強しないでバイトしてたほうがいいじゃん」と言われると、ちょっと違う気がする。社会に出るうえでの大切な考え方や、仕事について持ってほしい気持ちの根っこの部分を、自分の子どもや若い世代にどうやって伝えるか悩んでいた人が多かったんでしょう。そこに応えてくれたのが、『なぜ僕らは働くのか』だったんだと思います。一言では言い表せない大事なことを伝えるには、本ってすごくいいツールですから。自分の子どもや親戚の子どもにプレゼントしました、と言ってくれる人が多かったですね。
それに、自分の考えを整理したり、いままでの仕事を振り返ったりするために本書を買ったという大人の方も多かったようです。なぜ働くのかって考えさせられること、大人にもよくありますから。
―なぜ働くのかを考えさせられた出来事でいうと、新型コロナウイルスの流行が思い浮かびます。
(宮崎)そうですね。新型コロナウイルスという外圧により、私たちはとても心を揺さぶられました。流行の最初の頃は、生きることについて深く考えさせられましたよね。不要不急の外出は控えろと言われ、仕事に一心不乱に打ち込んでいた人も、仕事よりも命が大事だよなと一度立ち止まらされた。命の危険を感じながら、でも経済を回していく必要があると言う人もいるし、日々の生活費も稼がなきゃいけないし……。生きることと働くことについて、深く考える日々でした。
すこし生活が落ち着いてからも、私たちの心のバランスは仕事よりも家庭や自己の生活に重きが置かれるようになった気がします。会社内で過ごす時間が減り、在宅勤務やWeb会議が当たり前になったことで、精神的に開放されましたよね。仕事に関して、場所の縛りが緩くなったことで、心の縛りも緩くなったというか。3年前までは「そういうものだから」と、あきらめて毎日通勤ラッシュに揉まれて遅くまで残業をしていた。そんな人も多かったと思いますが、仕事に心を縛られなくなって、なぜ働くのかを自分事として考える人が増えたのではないでしょうか。
―多くの読者から感想が届いたと思いますが、特に反響のあったページを教えてもらえますか?
(宮崎)大人の読者と中高生の読者で、印象深いページは違ったようです。大人から反響があったのは、スタンフォード大学のクランボルツ教授が提唱した“計画的偶発性理論”について記述したページですね。簡単に説明すると、「自分らしい素敵なキャリアを構築している人というのは、よい偶然を掴んでいることが多い。そして、よい偶然を掴める人、つまり仕事がうまくいく人には、5つの特長がある」ということです。
その5つというのは“好奇心”“持続性”“柔軟性”“楽観性”“冒険心”です。いろいろなことに好奇心を持ち、興味を強くそそられたことに対しては持続的に取り組む。ときには自分の意見も変えるような柔軟性を持つ。挑戦に対して不安になりすぎず楽観的に、思い切って冒険をしてみる。そんな人が自分のキャリアを好転させる偶然を掴めるというのです。
―その話は私もこの本を読んで初めて知りました。すごく勉強になりました。
(宮崎)これは、キャリアコンサルタントや人事系の仕事をしている人たちの間ではちょっと知られた理論なのですが、この本ではじめて知ったという大人の方も多かったようです。クランボルツ教授は「個人のキャリアの8割は予期せぬ偶然で決まる」としています。私はこの考え方がすごく好きで、「夢を決めてその実現に向けて一直線に頑張る人が素晴らしい」という、学校現場でよくやりがちなキャリア教育のスタンスに一石を投じたいなと思い、このページを作りました。自分の将来について考えることは大事だけど、早い段階でやりたいことが決まっているのがよいわけではないと伝えたかったんです。学校の先生は、先生になりたくて一直線に頑張って勉強してなったという人が多いかも知れませんが、世の中にはそんな直線的なキャリアを築いている人は多くない。“キャリアの8割は偶然”っていうほうがしっくりくるし、将来へのアンテナだけ張っておこうと思えば心もラクになれますよね。
―中高生の読者から反響のあったページはどこですか?
(宮崎)「いい子」を捨て自分の人生を作ろう、と題したページが中高生たちからは反響が大きかったですね。このページは、大人や社会が求める「いい子」「できる子」を演じると誉めてもらえるけど、その延長線上にあなたの幸せな人生はないかもしれないよ、ということを記述しています。
これは偏差値教育のレールに乗って、何も考えずに勉強だけしていた過去の私への戒めです。勉強を頑張ったら親は喜び、偏差値の高い大学に入ったら将来はいい会社に入れて幸せになれる、そんなことを何となく刷り込まれて育ってきましたから。でも、それで私は就職活動時に苦労しました。だから、自分の人生を自分で作る覚悟を早めから持ちましょうというメッセージを伝えたかったんです。
「このページを読んでこれは自分のことだと思い、ハッとしました」という感想をけっこうもらいましたね。私みたいになりそうだった人を救えたというのは、とても嬉しいです。企画当初の思いを実現できたわけですから。
―そういう記述をすると「勉強自体に価値がない」と中高生に思われる恐れはありませんでしたか?
(宮崎)そのページだけ取り出すとそういう解釈もできるかもしれないですが、本全体を通して読んでもらえればそんな風には伝わらないだろうなと思っていました。この本では勉強を頑張ることで自信がつくなら、それはとてもいい成功体験であるとしています。また、学歴や偏差値の高い学校に行くというのは、一種の資格のようなもので選択肢を広げるものだと記載しています。大学に行くことで幸せになる人もいるし、そうじゃなくても満足できるだけ稼げて幸せになっている人だっている。そこで人生が決まるわけではないですから。
そういうことを一つひとつちゃんと説明したからか、「この本を読んで勉強をする意味がわかり、やる気が出た」という感想も多くもらっています。「勉強だけしていてはダメ」と書いてある本を読んで、勉強のやる気が出るというのは面白い反応ですけどね。
―本日はありがとうございました。最後に今後の抱負などをお聞かせください。
(宮崎)『なぜ僕らは働くのか』が50万部突破ということで、とてもうれしく思います。お読みいただいたみなさま、ありがとうございました。まだ、お読みいただいていない方は、ぜひ書店でご覧になっていただければと思います。
イチ編集者としては、これからもみなさんのためになる本をお届けしたいと思っております。実は『なぜ僕らは働くのか』の姉妹編として、2023年3月に『僕らの未来が変わる お金と生き方の教室』という本を発刊することになりました。今度は“お金”という難しいテーマを題材にしていますが、『なぜ僕らは働くのか』同様に、わかりやすくて大人も子どもも学びになる本となっておりますので、ご興味あればお読みいただければと思います。
【聞き手:佐藤史弥】
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宮崎純
株式会社 Gakkenコンテンツ戦略室所属、シニアプロデューサー。2005年入社。
これまで手掛けた主な書籍に『やさしい高校数学』シリーズ、『宇宙一わかりやすい高校●●』シリーズ、『勉強のトリセツ』シリーズ、『5分で論理的思考力ドリル』シリーズ、『2分で読解力ドリル』シリーズなど。2020年3月に発刊した担当書籍『なぜ僕らは働くのか~君が幸せになるために考えてほしいこと~』は、2020年度いちばん売れた児童書(20年4月~21年3月、日販調べ)となる。難しいことも楽しくわかりやすく伝えることを信条とし、新しい学びを常に市場へ提案している。
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【商品概要】
『なぜ僕らは働くのか』
監修:池上彰
定価:1,650円(本体1,500円+税10%)
発売日:2020年3月19日
判型:A5変型判/228ページ
ISBN:9784052051715
発行所:株式会社 Gakken
学研出版サイト:
https://hon.gakken.jp/book/1020517100
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