今月のお噺は

 江戸中橋の漢方医、尾台良玄はたいへんな名医。このところ、床に臥せっている蔵前の大店伊勢屋の娘を診(み)ていたが、往診が重なったので、弟子を代脈に行かせることにした。「まず脈を拝見し、舌を診なさい。それからお腹の触診だが…。そうだ。言っとくが、お嬢さんの下腹にしこりがあるが、そこを押してはならんぞ。この前わたしが押したら放屁をなさった。お嬢さんは真っ赤になって恥じ入っていたので、機転をきかせ、側の母親に『近頃耳が遠くなりましたので、ご用の際は大きな声で願います』と言ったら、お嬢さんは安心されたが、そんなことのないよう、呉々も気を付けて行ってきなさい」と、助言した。伊勢屋に着いた弟子は診察するようすもみせず、羊羹を食べて帰ろうとして引き止められた

若先生診察を…あっそうだ。だいじょうぶ。脈はあります。舌を診て…と。それからお腹を…(あっしこり)そこを、思いきり押したから大きなおならが出た。な、何ですな…。用がありましたら大きな声で願います。近頃耳が遠くなって… まあ。 大先生も でしたが、 若先生も… はい。 ですから 安心 なさい。 今の おなら だって、 ちっとも 聞こえま せんでし たから! おあとが よろしい ようで。