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厚生労働省:地域社会保障教育推進事業「社会保障教育のモデル授業」取材レポート

(取材:学研教育総合研究所 松田豊一)


取材のテレビカメラと教育検討会など大人の傍聴者が見守る中授業が始まった
各自理想の福祉の形を、サービスと負担のグラフに各自シールを貼っていく

厚生労働省では、平成23年度より有識者検討会(「社会保障の教育推進に関する検討会」)を設置し、教育現場で活用するための教材を作成するなど、社会保障教育推進のための議論を進めている。また検討会で作成した教材(映像教材・ワークシート等)の効果検証及び社会保障の意義などをより深く理解してもらうための効果的な授業方法などの検討のため、全国十数校の高等学校で地域社会保障教育推進事業(モデル授業)を実施している。

11月20日、東京都立蒲田高等学校で行われたモデル授業を取材した。公民科教諭の浅川貴広先生による、“社会保障制度の充実”(全3回)の第2回目の授業。第1回授業では、「『社会保障』への導入」として「映像教材」を視聴しながら、穴埋め式のワークシートに記入し、「社会保障」に興味を持たせ、問題喚起を行ったという。

今回の第2回は、「『社会保障』と私たちの人生」をテーマに、「身近な社会保障ワークシート」(一部アレンジ)や、独自のシートなどの教材を使用し、パワーポイントのスライドを提示しながら行われた。モデル授業ということでテレビカメラや取材陣、教育検討会の有識者が見守る中、効果音つき「社会保障『高校生クイズ』」で選択肢を答えさせるなど、生徒たちの緊張を解き、興味を喚起させることから、授業がスタートした。

まだ、高校生にとっては身近?とはいえない、「社会保障」と「人生」について、こども期・成人期・高齢期と進む「人生」と「社会保障」のタイムテーブルを簡潔にまとめた穴埋め式のワークシートに、生徒たちの声を元に記入しながら授業は進み、授業の後半では4人ごとのグループに分かれ、それぞれの考える「理想の社会保障」の形について考えることになった。


生徒たちに積極的に問いかけ、それぞれの意見を引き出す浅川教諭

4人ずつのグループワークで理想の社会保障を話し合う

まず社会保障制度による福祉「サービス」を実現するには、「財源(お金)」つまりみんなの「負担」が必要なことをスライドで説明。そして、ワークシート上にある「縦軸にサービスの高低、横軸に負担の高低が描かれた」グラフに、各自が考える理想の位置(サービスと負担のバランス)にシールを貼った。指名された生徒たちは、黒板に貼られた大きなグラフにシールを貼って、なぜそう思うのか、自分の考えを発表した。

その後、「社会保障の在り方」を考えるため、タイプの違う三つの国「スウェーデン」「アメリカ」「日本」を取り上げた。福祉サービスについて、スウェーデンは政府の役割が大きい「政府依存型」に最も近く、アメリカは「市場依存型」、日本は「家族依存型」に近いことを解説。誰が福祉サービスを担うのかについて意見を話し合い、それぞれのグループ代表が理想に近いタイプを発表した。結果は、政府依存型、家族依存型が同数で、市場依存型の社会保障を理想とする声は聞かれなかった。政府依存型支持は、福祉が充実していると老後が安心、家族依存型支持は、家族や近隣の人たちと協力したい、ということだった。負担はあっても、やはりそれなりのサービスが必要と考えているようだった。最後は、授業のまとめとして、それぞれのタイプの社会保障の長所短所、問題点をみて、「自分たち自身の課題」として、少子高齢化が進み、変わりつつある日本の社会保障を考えることが大事、というスライドが提示され授業は終了した。

浅川教諭によると、例年は、「年金」や「医療保険」の現実的な社会保障制度を教えているが、今回のモデル授業のように、制度の在り方や制度そのものを考えさせるというのは初めてのこころみだったという。「社会保障」というと、生徒にとっては抽象的過ぎるかもしれない印象だった。普段から、言語活動やグループワークでの授業に力を入れているとのことで、今回使用したワークシートなどが、もっと生徒自身の考えや意見をうまく取り込めるようになれば、より有効な教材になると思われた。

現代の高校生は、いつまでも子どもっぽい感じを受けるが、近い将来、必ず自分の人生にかかわってくる、「社会保障」。授業を受けた生徒たちは、今の段階で各自が理想とする「社会保障」のタイプを三つの中から選んでいた。理想と完全に一致するものはなくても、それに近い形を「自分の考え」で選んだ。それは、今回の授業で彼らが彼らなりに、「社会保障」について問題意識を持った証といえるだろう。

厚生労働省「社会保障の教育推進に関する検討会」

 厚生労働省「社会保障教育」

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