めまぐるしく社会が変動する今日、企業には変化に対応する力、事業をやり抜く力がこれまで以上に求められています。それと同様に、サステナビリティに対する取り組みについて、ステークホルダーにわかりやすく説明することも欠かせなくなっています。
これまで、学研グループは環境や社会とのかかわりや貢献に関して、CSRレポートでお伝えしてきました。教育・医療福祉という、社会と密接につながる事業を柱にしている当グループでは、財務的価値はもとより、社会的価値を生み出すことが持続的な企業価値向上につながるものと考えております。
このたび、2019年にSDGsへのコミットに際して特定したマテリアリティを、社会の変化や新しい事業に即して4年ぶりに見直しました。
当グループの価値創造プロセスにおいては、事業によって生み出される社会的価値が大きいほど、自社の経営資本が増大するのが特徴です。その社会的価値を説明することで当グループのサステナビリティに対する考え方やその取り組みをより理解いただけるものと考えています。
当グループには、教育と医療福祉という二つの大きな事業分野があります。
教育分野では教室・塾、出版コンテンツ、園・学校向けなどの事業を行っており、私たちが目指すのは持続可能な教育を実現することです。民間企業として教育の地域格差や経済格差を是正する使命感から、オンラインによる「バーチャル・スマート・キャンパス(ViSC)構想」や、幼児期の知的好奇心を大切にした「学研幼児教室」などにより、未来を担う子どもたちの成長を支え、日本の教育レベルの向上に貢献しています。
医療福祉分野では、できるだけ多くの方が長く、自分らしい暮らしを続けることができるように、サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)や認知症グループホームなど、心身の状況に合わせた住まい、サービスを提供しています。
サ高住では、入院率の低下を目指したケアや環境構築、認知症グループホームでは自立支援ケア実践など、独自の取り組みを通し、高齢者のQOL向上を目指しています。
また当グループの高齢者向け住まいは、「持続可能な社会保障制度」の実現にも寄与しています。試算では、要介護1~3の特定施設と特別養護老人ホームにご入居されている方のなかで、要介護3程度の方が良質なサ高住で生活することにより、介護保険料が削減されることになります。サ高住の積極的な展開は、高齢者の方の暮らしを支えるだけでなく、社会保障費の増大に歯止めをかけることにもつながっているのです。
子育て支援事業では、乳幼児保育のみならず、「誰ひとり取り残さない子育て支援」として、児童発達支援や学童など、さまざまな支援の場を設けています。子どもたちの健全な成長をサポートすることは、保護者が安心して働き続けられることにもつながっています。
このように、教育分野・医療福祉分野ともに、学研は社会を支えるための民間企業として、常にお客様を取り巻く社会課題を解決するべく事業を進めています。
子どもから高齢者の方まですべての人が幸せに生きていくために、仕組みを考え、サービスを提供する民間企業というのは、非常に独特なポジションであり、当グループの強みでもあります。
コロナ禍のなかで策定した中期経営計画「Gakken2023」は、教育分野では「新たなまなびの創造と多様な学習機会の創出」、医療福祉分野では「トップカンパニーを目指し持続可能な街づくりに貢献」、グループ全体で「DX加速とグローバル展開」を経営方針に掲げて事業活動に取り組んでいます。2年目にあたる2022年9月期は、増収・増益を果たしました。
教育分野において、学研教室は国内外に1万8,734教室と会員数約34.1万人、塾は国内外に408教場と生徒数約3.7万人(2023年3月時点)を有しています。
コロナ禍の3年間は、今までは当たり前と思われていた通室・通塾という学び方を見直すこととなり、生徒が学び方を選ぶ形に変わりました。新たな学びに対応するには、リアル・オンラインに関わらず、良質なコンテンツを提供する必要があるため、出版事業を含めた教育分野の構造改革を進めました。
中期経営計画で定めた「新たなまなびの創造と多様な学習機会の創出」の実現に向けて、これまでグループ内に分散していた経営資源をまとめ、2022年10月、学研プラス、学研教育みらい、学研メディカル秀潤社、学研出版サービスを統合し、(株)Gakkenとして始動しました。
2022年9月期には、「地球の歩き方」シリーズや「最強王」シリーズなどのヒットがありましたが、今後もシナジー効果を期待しています。
医療福祉分野では、サ高住と認知症グループホームを合わせた運営総施設数は494拠点と全国1位となっています(2023年3月時点)。
65歳以上の高齢者数は、3,600万人を超えており、2040年にはピーク(約3,900万人)を迎えます。また、75才以上の後期高齢者の全人口に占める割合は増加を続け、2055年には25%を超えると予想されています。さらに、就業人口が減少していくなかで、戸建住宅や中山間地域への介護サービス提供が限界を迎える可能性は高く、効率的なサービス提供が可能なサ高住などの高齢者集合住宅のニーズはますます
増加していくものと考えており、2030年までに1,000拠点を目指しています。
中期経営計画では、DXやグローバル、その他既存事業も含めた戦略領域に対して250億円の投資を計画しましたが、保育園運営会社への出資に加えて、ベトナムを中心にグローバル事業への投資(DTP社など)、サ高住・認知症グループホームへの設備投資、DXの加速化を目的とした新社設立など、概ね計画通りに進捗しています。
中期経営計画「Gakken2023」の最終年度である2023年9月期は、これらの投資効果も含め、売上高1,620億円、営業利益67億円、自己資本当期純利益率(ROE)7.2%の達成を目指しています。
当グループは、「戦後の復興は、教育をおいてほかにない」という信念のもと、1946年に古岡秀人が創業した、学習研究社が母体になっています。そして、戦後の日本は世界に類を見ない急速な復興を遂げ、先進国の一角を占めるまでになりました。
2022年から、私たちはウクライナ国内外の避難民への幼児向けワークブック「Play Smart」(ウクライナ語版)の無償配布や、ルーマニアに避難したウクライナの子どもたちに対しては、学研教室の教材や教授法の提供などを行っています。
これらの活動は学研の創業の信念に基づくものであると同時に、国内はもちろん、世界に目を向けたときでも、いかなるときにも学びを止めてはならないという、私たちの強い意志でもあります。どのような状況であっても、持続可能な社会の実現や発展には、次世代人材の育成に尽きると考えているからです。
当グループ内においても、「持続的成長に必要不可欠な企業価値創造の主体として、人材が最も重要な経営資源」と位置づけています。現在、当グループは女性従業員が全体の68.4%と過半数を占め、事業への貢献度が高いのが特徴です。課長級の女性従業員比率は34%、部長級の女性比率は16%と、日本企業の平均からすると高いほうですが、グローバルな水準には届いていません。将来的には、これを従業員比率に近づけたいと考えており、さまざまな研修や登用制度などの人事施策を実施しています。このほか、人種や年齢など、人材の多様性を重視した組織づくりを進め、人的資本経営に取り組んでいます。
温室効果ガスの削減についてはTCFDへの賛同や2050年のカーボンニュートラルまでのCO₂削減計画を策定しました。生物多様性の保全、ビジネスと人権などの課題は、サステナビリティ委員会を設置して各種方針を策定し、施策に落とし込んだうえで取り組みを開始しています。2022年10月には、新たにサステナビリティ推進室も設置しました。
また、これらの課題をより早く、より着実に、より多く解決するために、学研ホールディングスの取締役・執行役員とグループ主要会社の取締役に対し、従来から取り入れている財務指標に非財務指標を加えた役員報酬制度を、2023年9月期から導入しています。
サステナビリティについてはまだまだ取り組むべき課題が多く、今後も統合報告書で随時、報告・開示していきたいと考えています。これからも、当グループに対するご協力とご意見をいただければ幸いです。
1959年生まれ。広島県呉市出身。防衛大学校卒業後、貿易商社を経て、1986年に株式会社学習研究社(現学研ホールディングス 以下学研HD)入社。学研教室事業部長、執行役員、取締役を歴任し、2009年学研HD取締役に就任。学研塾HD、学研エデュケーショナル、学研教育出版の代表取締役兼任を経て、2010年12月、学研HD代表取締役に就任。教育と医療福祉を中核とした事業改革を牽引し、13期連続増収、8期連続増収増益のV字回復を果たした。
現在は、日販グループホールディングス株式会社社外取締役、公益財団法人古岡奨学会理事長、一般社団法人日本雑誌協会副理事長などを務める。 著書に『逆風に向かう社員になれ』(Gakken)、『M&A経営論 ビジネスモデル革新の成功法則』(東洋経済新報社)がある。
従業員とのコミュニケーションとして、自らの考えを社長ブログ「羅針盤」で定期的に発信。2022年4月には『逆風にむかう社員になれ』をGakkenより発刊。社員への強い期待とメッセージを伝えるものとなっています。
また、2023年3月『M&A経営論 ビジネスモデル革新の成功法則』を東洋経済新報社より発刊。自身の経験から紡がれた経営論を展開。広く一般のビジネスマンに向けた著作です。
グループ会社全体では、半期に一度MVPを決定し表彰しています。成功体験をグループ会社全体で共有するとともに、従業員のモチベーションアップ・人的資本経営につなげています。
地域とのコミュニケーションとして、学研ビルにあるこども園の子どもたちと実施する、エントランスホールに飾られたクリスマスツリーの点灯式が恒例になっており、地域とのつながりも大事にしています。
また、サステナビリティの意識に敏感な若い世代の考えを知るため、「国際子ども平和賞」を受賞された川﨑レナさんとの対談を実施。世界で活躍する新しい世代との交流を通じて、世界で活躍する人材を育てるうえで、学研グループができることを考えていきます。