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小学生白書Web版 2012年7月調査

第2章 子どもの教育に対する家庭の方針 -理科的な活動に対する保護者の構えに着目して-

渡辺恵(明治学院大学非常勤講師)

1.家庭におけるしつけ・教育の方針
(4)多様な活動経験の提供に対する構え
②多領域の活動を経験させるという教育選択は、保護者の教育経験を反映する?

今日の小学生の学校外教育の活動を見ていくと、ひとりの子どもがいくつもの活動を経験している様子が窺える。それは、子ども自身による選択もあるが、保護者の働きかけによる影響もあろう。そこで、保護者が教育方針として、子どもに多様な経験を与えることをどの程度重視しているのかを最後に検討しておこう。

様々な経験を与えることを重視する程度を見ていくために、「多領域の活動経験重視度」の尺度を作成していく。「多領域の活動経験重視度」は、図2-6の5つの項目(地域活動経験、身体的な活動経験、芸術的な活動経験、教養的な活動経験、社会体験的な活動経験)について、それぞれ「とてもあてはまる」または「まあてはまる」の回答を1点、「あまりあてはまらない」または「まったくあてはまらない」の回答を0点とし、5項目の合計得点を算出したものである。

それでは、保護者がどのくらい子どもに多領域の経験を与えることを心がけているかをみてみよう。図2-7の①は、全家庭の分布を示している。全体では、「0」の家庭も1割程度あるが、中央値は「2」である。つまり、最も多いのは2つぐらいの領域の活動を経験させている家庭であり、全体の3割程度である。その一方で、4つか5つの領域の活動に子どもを参加させようとする家庭もそれぞれ1割程度ずつあり、多方面での活動経験を与えようとする家庭が少なからず存在することが窺える。

図2-7.「多領域の活動経験重視度」

①全体の分布

②世帯年収別にみた分布

③母親の最終学歴別にみた分布

④「文化的資源」別にみた分布

世帯年収(図2-7②)、母親の最終学歴(図2-7③)及び「文化的資源」(図2-7④)別にみていくと、次のような特徴が窺える。図2-7②の分布から、世帯年収が高い家庭ほど、保護者は子どもに多方面の活動経験をさせようとする志向性がやや強く見受けられる。具体的に言えば、3つ以上の領域の活動を経験させようとする家庭は、世帯年収が「400万未満」である家庭では32.2%、「400~600万未満」では42.8%、「600万~800万未満」では46.0%、「800万以上」では50.6%となっている。つまり、多領域の活動経験を子どもに与えるという教育方針が選択される背後には、経済的なゆとりが家庭にあることの影響が窺えよう。

図2-7③の分布から、母親の最終学歴別にみていくと、4つ以上の領域の活動経験を与えている家庭は、「大学・大学院」では29.8%、「短期大学・高等専門学校」では22.4%、「専門学校・各種学校」では23.7%、「中学・高校」では15.0%となっている。高学歴な母親の家庭ほど、子どもに多様な経験を与えようとする志向性が強くなることがわかる。 図2-7④の分布から、「文化的資源」が豊かな家庭では、より、広範な活動を子どもに与える教育方針がとられていることが窺える。4つ以上の領域の活動を経験させようとする家庭は、多群では47.1%、中群では18.1%、少群では10.9%となっており、圧倒的に多群において多い。「文化的資源」の多い家庭では、蓄積されている文化的教養を、保護者が子どもの教育支援のために活用するだけではなく、子ども自身にも、幅広い経験を与え、文化的資源を蓄積させていると言えよう。

以上のように、全体では、2つ程度の領域の活動を経験させる家庭が多く、多領域の活動経験を重視する傾向が強いとは言い難い。しかしながら、母親が高学歴である場合や「文化的資源」が多い家庭など、一部の家庭では、特定の活動経験に集中させるのではなく、活動経験をできるだけ多面的に与えていく教育方針がとられていると言えよう。また、母親が高学歴である家庭や「文化的資源」が豊かにある家庭に見られるように、身体面、情緒面、社会性などに関わる経験を多面的に与える教育方針をとっている家庭では、学業に関わる能力に限らず、子どもの可能性を最大限に伸ばしたいという期待が高いと思われる(広田 1999、本田 2008)。そうした家庭では、理科的な活動経験もまた、多様な活動経験のひとつとして位置づけ、行っているのではなかろうか。この教育方針と、家庭での理科的な取り組みとの関わりについては、次節以降で検討していきたい。

<参考文献>
・広田照幸1999『日本人のしつけは衰退したか 「教育する家族」のゆくえ』講談社現代新書
・本田由紀2008『「家庭教育」の隘路』勁草書房

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