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小学生白書Web版 2012年7月調査

第3章 どのような子どもが理科を好きになるのか

遠藤宏美(宮崎大学特任助教)

3.子どもの「理科好き」を支える、家族のかかわり方
(2)子どもの理科的な興味・関心に対する、大人の家族のつきあい方

ところで、子どもの理科的な興味・関心に「理解を示す」とはどのようなことなのであろうか。どのように「理解を示」せば、子どもは「理科好き」になるのであろうか。そこでこの調査では、子どもが理科や科学への関心を持って行動していると考えられる、小学校6年生の日常にありそうないくつかの場面を設定し、仮にそのような場面に遭遇した場合、保護者(回答者)はどのように接するかを尋ねた。設定した場面と回答の選択肢は次の4つである。

【化石探し】
ある日、子どもが「恐竜の化石を見つけたんだ」と言って、普通の石にしか見えない石を大事そうに持ち帰ってきた。その日を境に「もっと化石を見つけるんだ」と言って、近所にある崖から、毎日大量の石を持ち帰るようになってしまった。子どもは帰宅すると金槌を取り出して集めてきた岩を片っ端から叩き割り、虫眼鏡を使って化石探しをしている。
回答の選択肢 1. 化石探しを、やめさせる。
2. あきるまでやらせておく。
3. 一緒に探す。
4. 配偶者、教師や専門家等に相談する。
5. その他
【シャボン玉作り】
夕飯の支度をしている最中に、庭でシャボン玉遊びをしていた子どもが、「もっと大きなシャボン玉」を作りたいと言いはじめた。最初は針金の輪っかを大きくするなどしていたが、そのうちシャボン玉の薬剤にもっと粘りがあった方がいいと思いついたらしく、台所から洗剤、石けん、ノリ、ご飯、納豆、山芋などの材料や道具を持ち出し、いろいろと試しはじめた。
回答の選択肢 1. すぐにやめさせる。
2. あきるまでやらせておく。
3. 一緒になって試してみる。
4. 配偶者、教師や専門家等に相談する。
5. その他
【ふたご座流星群の観察】
冬のある日、突然子どもが、「今夜はふたご座流星群の観察をするから、一晩中星が見えるところで夜空を見上げるんだ」と言い出した。子どもは家のベランダで一人で張り切って防寒着を着込み、寝袋や双眼鏡も準備している。新聞を見てもふたご座流星群が特に活発な活動を見せるらしいという記事はどこにも載っていない。
回答の選択肢 1. 観察をやめさせる。
2. 好きなようにやらせる。
3. 一緒に観察する。
4. 配偶者、教師や専門家等に相談する。
5. インターネットなどで確認する。
6. その他
【カビの観察】
朝食に食パンを出そうと準備をしていたら、うっかり買い置きしていた食パンにたくさんのカビが生えていることに気が付いた。「失敗しちゃった」と子どもにそのことを伝えたら、「学校から帰ってきたら、カビの観察をするから、そのパンを捨てずに取っておいて」と頼まれた。
回答の選択肢 1. 断る。
2. 子どもの言うとおりにカビの生えたパンを捨てずに取っておく。
3. 子どもの帰宅後一緒にカビの観察をする。
4. 配偶者、教師や専門家等に相談する。
5. その他

以上の4つの場面に対する保護者の回答と、子どもの「理科好き」との関係をまとめたのが図3-20である(「その他」はそれぞれ回答がわずかであったため、図からは省略した)。なお、回答の選択肢は、それぞれの場面を踏まえて次のような意図で設けた(アルファベットは筆者による分類。図3-20も同様)。

A:子どもの理科的な興味・関心に基づく行動をやめさせる
B:子どもが飽きるまで好きなようにやらせるが、保護者は直接関与しない(9)
C:保護者も一緒に子どもの理科的な興味・関心に付き合う
D:自分では判断がつきかねるので、他人(配偶者、教師や専門家)に相談する
E:自分で情報を得て確認する(【ふたご座流星群の観察】のみ)

図3-20によると、設定した4つのすべての場面において、Cの「保護者も一緒に子どもの理科的な興味・関心に付き合う」という回答をした家庭の子どもが、最も「理科が好き」(「とても好き」+「まあ好き」の合計)である割合が高いことが見て取れる。子どもが理科や科学に興味・関心を抱いたような行動を見せたときに、保護者がそれに付き合って一緒に観察したり試したりする行動をとるような家庭において、子どもの「理科好き」がより育まれているようである。

ここで興味深い結果がある。Aの「子どもの理科的な興味・関心に基づく行動をやめさせる」場合と、Bの「子どもが飽きるまで好きなようにやらせるが、直接関与しない」場合とでは、子どもの「理科好き」の傾向にさほど大きな違いが見られないことである。Aの「行動をやめさせる」ことは、子どもの意欲を減退させ、理科的な興味や関心を失わせることにつながるであろうと想像がつく。しかし、Bの「飽きるまで好きなようにやらせる」のは、子どもの意欲を阻害しているわけではなく、むしろ子どもの自主性や好奇心を尊重しているようにも見える。それなのに、子どもの「理科好き」の割合はAとほぼ同じであるのはなぜだろうか。

この理由を、DとEの回答から探ってみよう(ただし、D・Eと回答した保護者の数が少ないため、解釈は参考程度にとどめたい)。Dの「自分では判断がつきかねるので、他人(配偶者、教師や専門家)に相談する」を選んだ保護者について見ると、子どもの「理科好き」の割合は、A・Bの割合と同じくらいか、それらを下回っている。一方、Eの「自分で情報を得て確認する」では、保護者単独の行動で子どもを伴わないのにもかかわらず、Cの「保護者も一緒に子どもの理科的な興味・関心に付き合う」に次いで子どもの「理科好き」の割合が多い。Eは【ふたご座流星群の観察】のみに設けた選択肢であるため、あくまでも推測の域を出ないが、CとEには保護者自身が理科的な興味・関心を持ち、行動を起こす、という共通点があるように思われる。それに対し、A・BやDは、C・Eに比べて保護者の理科的な興味・関心が薄く、子どもや他人に任せていると言えなくもない。これらのことから、子どもの「理科好き」は、保護者自身も理科や科学への関心を持ち、子どもと一緒に行動したり、自身で情報を得て子どもの興味・関心をサポートしたりすることによって、育まれるのではないかと考えられる。

図3-20 子どもの理科的な興味・関心に対する、保護者の行動の仕方(場面別)

図
<注>
(9)【カビの観察】における回答の選択肢「子どもの言うとおりにカビの生えたパンを捨てずに取っておく」は、ほかの場面における「子どもが飽きるまで好きなようにやらせる」とはやや異なるため、図3-20では「B’」とした。

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