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小学生白書Web版 2012年7月調査

第3章 どのような子どもが理科を好きになるのか

遠藤宏美(宮崎大学特任助教)

2.どのような環境が子どもの「理科好き」を育むのか?
(1)都会に住む子より、地方に住む子のほうが「理科好き」?

第1節の結果からは、「理科好き」な子の特徴として、①男子に多い、②「論理的・計画的」な資質や「好奇心旺盛・行動的」な資質を持ち合わせやすい、ということがわかった。では、子ども本人が持ち合わせた性質ではなく子どもの周囲、すなわち「環境」による影響を考えることはできないだろうか。「理科好き」をより育みやすい、あるいは「理科好き」を支える「環境」というものはあるのだろうか。

「理科好き」と「環境」との関連を考えるうえで、まことしやかにささやかれるこのような噂を聞いたことはないだろうか、「『地方』に住む子のほうが、『都会』に住む子よりも理科が好き」であると。たしかに、一般的に「地方」には森林や川、海などの自然が多く、そうした自然に触れ合う機会が比較的多いといえるだろう。では、自然が身近に少ない「都会」や「都市部」に住んでいる子は、理科を好きになりにくいのだろうか。身近にはないからこそ、自然に憧れ、理科に興味を持つということは考えられないだろうか。あるいは、「都会」のほうが「地方」に比べて、図書館や博物館など理科の学習のサポートや科学に興味を抱かせるような施設が整備されていたり、そのような施設への交通アクセスがよかったりして、理科や科学に親しんでいくということはないのだろうか。

そこでまず、子どもたちが生活する地域を「都市部」と「地方」(6)とに分けて、「理科好き」との関連を調べてみた(図3-13)。この結果を見ると、地方において若干、「理科が好き」(「とても好き」+「まあ好き」の合計:「都市部」72.4%<「地方」75.2%)が多いものの、有意な差は認められない。

図3-13 居住地域別に見た、「理科好き」な子どもの割合

(理科が「とても好き」+「まあ好き」の合計)

図

居住地域別・男女別に見てみると(図3-14)、都市部に住む女子に比べて地方に住む女子に、「理科好き」がやや多く見られる(理科が「とても好き」+「まあ好き」の合計:「都市部・女子」62.3%<「地方・女子」67.0%)が、こちらも大きな差があるとまでとはいえない。全体的に見れば、都市部に住んでいても地方に住んでいても、「理科好き」であるか否かにはあまり関係しないことがわかる(7)

むしろこの図からわかることは、「都市部・男子」と「都市部・女子」の「理科好き」(「とても好き」+「まあ好き」)の差は20.2ポイント、「地方・男子」と「地方・女子」のそれは16.5ポイントと、都市部と地方のどちらにおいても男子のほうが女子よりも「理科好き」である割合が高いことである。すなわち、居住地域の違いよりも、男子か女子かという性別の違いのほうが「理科好き」に与える影響が大きいということである。

図3-14 居住地域ごとに見た、「理科好き」な子どもの割合(男女別)

(理科が「とても好き」+「まあ好き」の合計)

図
<注>
(6)本調査では、都道府県ごとの人口比率を勘案し、調査対象者が埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、大阪府、兵庫県の7都府県に住んでいる場合を「都市部」に、その他の道府県に住んでいる場合を「地方」に分類した。なお、都市部在住は39.9%、地方在住は60.1%となっている。
(7)舞田は、公立中学校3年生の平成24年度「全国学力・学習状況調査」の質問紙調査の結果を分析し、中学生の「理科嫌い」は「都市的な県」ほど高いという傾向を見出している(舞田敏彦「でーたえっせい:理科嫌いは都市に多い?」(2013年2月2日)http://tmaita77.blogspot.jp/2013/02/blog-post.html(2013年4月1日接続確認))。なお、このことに関連して、同調査における小学校6年生の「理科嫌い」の結果を見てみると、注(6)に示した「都市部」7都府県のうち4都府県が全国平均(18.2%)を上回ってはいるが、中学生ほど「理科嫌い」が都市部に見られるという傾向は顕著ではない。「理科嫌い」(あるいは「理科好き」)の傾向は小学校段階では明確には見られず、中学校段階で顕著な差が生じるものと考えられる。

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