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小学生白書Web版 2012年7月調査

第2章 子どもの教育に対する家庭の方針 -理科的な活動に対する保護者の構えに着目して-

渡辺恵(明治学院大学非常勤講師)

3.家庭における理科・科学に関わる活動の取り組み
(2)家庭の特性と理科・科学に関わる活動の機会
②教育方針と理科的な活動の機会

それでは、教育方針による違いはあるのだろうか。第1節で述べたように、教育方針は家庭により異なっている。この点を考慮するならば、教育方針の一貫として、理科や科学的な活動を積極的に行う家庭もあれば、そうではない家庭もあると考えられる。そこで、「学習関与志向」と、「多様な活動経験重視志向」との関わりから、家庭における理科・科学に関わる活動の取り組みを見ていこう。

表2-6は、教育方針別に、子どもと一緒に活動している割合(「よくする」と「ときどきする」の合計)と理科や科学に関わる活動機会の平均値をみたものである。

表2-6.家庭の教育方針別にみた理科・科学に関わる活動の取り組み

表

*上記10項目の「子どもと一緒に活動している」割合は「よくする」または「ときどきする」に回答したものである。

まず、「学習関与志向」に着目していこう。「学習関与志向」は、子どもの勉強を手助けしたり、知識を増やしたりすることに力を入れているような教育方針である。「学習関与志向」が強い家庭では、どの程度、理科や科学に関わる活動に取り組んでいるのかを確認してみよう。活動機会の平均値を見ていくと、「学習関与志向」の強群の家庭では、理科や科学に関わる活動機会は15.73である。中群が13.25であり、弱群が9.51であることから、「学習関与志向」が強い家庭ほど、理科や科学に関わる活動に積極的に取り組んでいることがわかる。

個々の活動の割合を検討すると、「学習関与志向」の強群が弱群より40ポイント以上高くなっている活動(表2-6の「学習関与志向」の「強群-弱群の差」欄を参照)は、「自然災害や自然破壊、エネルギー問題といった環境問題について話をすること」(48.4ポイント)、「テレビで科学や理科に関わる番組を見ること」(45.9ポイント)、「理科や科学に関する本や絵本を読んだり、読んだ本の内容を話し合ったりすること」(43.7ポイント)の3項目である。ここから、理科や科学に関わる知識や情報を得たり、深めたりと、理科や科学に関わる知的な関心を伸ばすような活動が特に積極的に取り組まれていることが見て取れる。「学習関与志向」の教育方針では、「受験に役に立つような知識や技術を身につけること」を重視する傾向がみられ(5)、また子どもに将来、大学や大学院まで進学することを期待する傾向が強い。これらの点も含めて推察すると、「学習関与志向」の強い家庭では、理科や科学に関わる活動は理科の勉強の一貫として積極的に取り組んでいるのではないだろうか。

「多様な活動経験重視志向」は、子どもに様々な経験を与え、幅広い関心を育てることに力を入れている教育方針である。この教育方針が強い家庭では、理科や科学に関わる活動にどのように取り組んでいるのだろうか。理科・科学に関わる活動機会の平均値を見ていくと、「多様な活動経験重視志向」が高群の家庭では17.73であり、中群の12.85や低群の9.97に比べ、非常に高い値になっている。多様な活動経験を子どもに与えようとする家庭ほど、理科や科学に関わる活動に対してもまた積極的に取り組んでいることがわかる。

個々の活動の割合に着目すると、高群が低群に比べ40ポイント以上高い活動(表2-6の「多様な活動経験重視志向」の「高群-低群の差」欄を参照)は、次の4つである。「自然の多いところで遊んだり、散歩したりすること」(55.3)、「動物園や植物園、科学博物館などに行くこと」(50.6)、「理科や科学に関する本や絵本を読んだり、読んだ本の内容を話し合ったりすること」(49.7)、「工作すること」(48.6)である。ここから、理科や科学に関わる活動のなかでも、自然と触れあったり、ものを作ったりと体験的な活動が非常に良く行われていることが窺える。

以上のように、「学習関与志向」と「多様な活動経験重視志向」のどちらの教育方針も、家庭における理科や科学に関わる活動機会を増やすという影響が見て取れた。その影響力は、直接的な影響に限るが、「文化的資源」をしのぐものと思われる。しかしながら、個々の活動の取り組み状況に目を向けると、「学習関与志向」と「多様な活動経験重視志向」では、理科や科学に関わる活動に取り組むねらいが異なっているように思われる。「学習関与志向」が強い家庭において理科や科学的な活動の機会が多いのは、子どもが理科の知識や情報を獲得したり、深めたりすることを保護者が望んでいるためと推察される。それに対して、「多様な活動経験重視志向」の高い家庭では、理科や科学的な活動の中でも体験的な活動がより積極的に取り組まれていた。この点で、理科や科学に関わる活動は、理科の学習としてというよりも、子どもの興味・関心を多方面に伸ばすための手段として位置づけられているように思われる。

<注>
(5)「学習関与志向」の強群の家庭では、子どもが「受験に役に立つ知識や技術を身につけること」を「重視している」割合は59.7%であり、中群の49.6%や弱群の44.2%よりも10~15ポイントほど高くなっている。

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