学研グループは2022年8月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の最終報告書(TCFD提言)に賛同しました。TCFD提言は、世界共通の気候関連情報開示の枠組みであり、すべての企業に対し、4つの開示推奨項目である「ガバナンス」「リスク管理」「戦略」「指標と目標」に沿って開示することを推奨しています。当社グループは、株主・投資家などのステークホルダーと当社の気候変動対応に関する積極的な対話を実施し、TCFD提言の4つの項目に沿った効果的な情報開示を行っていきます。
当社グループにとって気候変動を含めた環境への問題は、教育や医療福祉事業と密接に結びついており、事業に対して多大な影響を与えることを認識しているため、経営における意思決定を行う取締役会が気候変動に対しての責任を負っています。
また、サステナビリティを重要な経営課題と認識し、代表取締役を委員長として常勤の取締役で構成するサステナビリティ委員会を設置し、気候変動をはじめ各種の社会課題を企業経営によって解決するための取り組みを行っています。サステナビリティ委員会には、サプライチェーンマネジメント部会を設置し、ここに、代表取締役を最高責任者とするサステナビリティ・マネジメントシステム(SMS)を構築しています。SMSは、環境方針の策定、必要な経営資源(要員と所定の技能、技術と資金)の準備及び配分、内部監査の実施などを最高責任者の役割として規定しています。
気候関連課題の最高責任者として、代表取締役は、当社グループと関連性がある気候関連問題のリスク管理方針や戦略についてレビューおよび指導をし、リスクや機会などを監査する責任、リスクや機会の影響変化および対策の効果と行動計画・進捗をモニタリングする責任、および気候関連の戦略や重大施策に対する最終判断をする責任などを負います。代表取締役の責任の元、当社は、2022年9月期には「2050年までの温室効果ガスの実質ゼロに向けて、排出量を把握し、削減に向けた行動計画を策定すること」というトップコミットメントを発し、グループ全体の社会・環境活動として温室効果ガスの排出量の把握と、それによる行動計画の策定を進めています。
学研グループでは、リスクを「当社グループにおける一切の損失発生の危険をいい、以下のもの(ア~ウ)を含むがこれらに限定されない」と定義しています。
- 当社グループに直接または間接に経済的損失をもたらす可能性
- 当社グループの事業の継続を中断・停止させる可能性
- 当社グループの信用を毀損し、ブランドイメージを失墜させる可能性
また、発生頻度によるリスクと損失想定規模によるリスクに分けて評価し、ランクごとに点数化して管理をしています。ビジネスに重大な財務的または戦略的な影響度合いは、事業によって異なるので、点数化したリスクを優先的に対応すべきものと、維持する項目に分けて管理しています。気候変動は、ビジネスに重大な影響を与えるリスクとして、内部統制委員会と連携し、サステナビリティ委員会で統合的に管理されています。
<サステナビリティ推進体制はこちら>
当社グループは、TCFD提言で求められている2℃以下シナリオを含む複数の気候関連シナリオに基づく検討を実施しました。シナリオ分析においては、移行面で影響が顕在化する1.5℃シナリオと物理面での影響が顕在化する4℃シナリオの2つのシナリオを選択しました。また、学研グループの事業については、「教育分野」と「医療福祉分野」に大別し、さらに「教育分野」においては「教室・塾事業」と「出版コンテンツ及び園・学校向け物販事業」に構造別に整理し、各領域別に気候変動に伴う影響を確認しました。
事業分野 |
主な事業内容 |
教育分野(教室・塾事業) |
幼児教室並びに学研教室の運営、進学塾等の運営 |
教育分野(出版コンテンツ及び園・学校向け事業) |
出版並びにデジタルコンテンツ等の製作販売、幼稚園・学校向け物販やサービスの提供 |
医療福祉分野 |
サービス付き高齢者住宅や訪問介護施設の運営、認知症グループホームの運営、保育園の運営、学童施設の運営受託等 |
- ◎:影響大きい 〇:影響やや大きい △:影響は軽微
4℃上昇した世界においては、気候変動による豪雨や強風等の増大に伴い、洪水発生頻度 は4倍に増加すると考えられています。その影響により、当社グループの各事業所の浸水被害に伴う修繕・災害対策コストの増加、調達や輸送の遅延やそれに関連する運営コストの増加が予想されます。
特に、医療福祉事業への影響が最も深刻であると考えています。浸水等の被害による修繕コスト増加や運営停止に伴う損失にとどまらず、当社グループのサービス付き高齢者向け住宅や認知症グループホームに入居されている約1万4,000人の高齢者の安全で穏やかな生活を脅かす可能性があると考えています。このようなリスクを重く受け止め、避難計画の策定など災害対策を強化してまいります。
気温の上昇を1.5℃以下に抑えた世界においては、脱炭素移行に伴う炭素税(温暖化対策税等)、温室効果ガスの排出を抑制する政策導入や規制強化が進むと考えられます。それによる自社の事業運営にかかる燃料費や電力コストは2030年までに最大5億円*程度増加する可能性があると見込んでいます。また、紙等の資材調達についても、メーカー側の脱炭素移行に関するコストが価格転嫁されることで、調達コストが増加する可能性もあります。当社グループ各事業拠点におけるエネルギー効率の高い事業運営に加え、再生可能エネルギーの活用、紙等資材の効率的な使用等の対策を強化してまいります。
また、脱炭素社会への移行に伴う消費者の環境意識の高まりにより、SDGs、自然環境をテーマとする出版コンテンツの需要が増加することが想定されます。当グループにとって重要な機会であると考え、消費者の多様なニーズに寄り添いながら、より多くの価値創出に取り組みます。
- 当社グループの76期排出実績値3.6万t-CO₂と、NZE2050に基づく2030年度推定炭素税を用いて推定。
当グループでは、気候リスク・機会を管理するための指標として、温室効果ガス排出量(Scope1・2・3)を定めています。 Scope1・2については、「2030年までに、売上高あたりの温室効果ガス排出量を2022年度比50%削減」という目標を定めました。排出量の8割を占める医療福祉事業では、今後も積極的な拠点開設を計画していますが、炭素効率性を高めた事業所の設計・運営に取り組むことで成長戦略と同時に排出量を増やさない計画を立てています。
また、Scope3については今まで部分的にとどまっていた算定範囲を拡大し、2022年9月期より排出量の網羅的把握を行っています。算定結果を踏まえ、削減活動を強化していきます。
電力・ガス* (原油換算値・L) |
温室効果ガス排出量(t-CO₂) |
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Scope1-2 |
Scope3 |
合計 |
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2018年9月期 (73期) |
11,258,481 |
- |
- |
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2019年9月期 (74期) |
11,303,363 |
- |
- |
|
2020年9月期 (75期) |
16,773,265 |
36,044 |
44,301 |
80,345 |
2021年9月期 (76期) |
20,864,403 |
35,975 |
95,549 |
131,524 |
2022年9月期** (77期) |
36,510,242 |
58,402 |
336,533 |
394,936 |
2023年9月期 (78期) |
37,016,564 |
54,637 |
283,474 |
338,111 |
【集計範囲】(Scope3カテゴリ8、10、11、15は関連なし)
2020年9月期 学研ビル各社が対象。Scope1-2は電力、都市ガス。Scope3はカテゴリ1~3、5~7。
2021年9月期 学研ビル各社、医療福祉分野各社、学研塾ホールディングス傘下各社および学研物流会社が対象。Scope1-2は電力、都市ガス、LPガス、ガソリン(エネルギー使用金額からの推計を含む)。Scope3はカテゴリ1~3、5~7。
2022年9月期以降 海外を含めた連結会社が対象。Scope1-2は国内拠点における電力、都市ガス、LPガス、ガソリン、軽油、灯油を使用量から算定(海外拠点は国内拠点のデータを基に推計)。Scope3はカテゴリ1~7、9、12、13、14。
【支配力基準】財務連結
【カバー率】100%
*電力・ガスのみ
** 2022年9月期Scope3において、算入するデータ範囲を見直し、再評価を行いました。結果に基づき、数値を変更しています。
- CDPは、ロンドンに本部を置く国際的な非営利団体で、機関投資家と連携し、企業や都市に気候変動、水、森林に関する戦略やデータの開示を求め、回答に基づく分析・評価を行い、機関投資家などに結果を開示しています。