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小学生白書Web版 2014年9月調査

【調査テーマ】「小学生の日常生活に関する調査」

9.まとめ
調査結果を受けて

学研教育総合研究所 客員研究員 髙橋良祐

はじめに

今回の調査は、小学生1~6年生を対象とした日常生活全般にわたる調査に加え、「携帯電話」「道徳」「土曜授業」など新規の質問や、「この1年間で活躍したスポーツ選手」「この1年間での注目ニュース」、「2020年東京五輪」などについて、小学生の意識や声を聞いており、各項目のまとめからは、子どものありのままの実態や意識が見えてきている。

また、当研究所の調査の特色の一つである地域差を表す調査で興味深かったことは、朝食の主食の違いである。地域の食物の生産の特色が、ごはん(米)食とパン食とに大きく別れており、子どもの食生活に影響していることが分かる。このことが学力や体力あるいは行動の様子に影響を及ぼしているのか否か詳しく調査・分析することも考えられると感じた。

大多数の児童が朝食をとっている結果については近年大きな変化はないが、大人と異なり子どもには余分なエネルギーが体内に蓄えられていないことから、引き続き毎朝の食事には大人が特に気を遣い、子どもの健全な体力や知力の基盤を整えることが大切である。

土曜日の授業などについては保護者との違いが明かで、子どもは自由な時間がほしく、大人はなるべくスケジュール管理された時間を過ごしてほしいと感じている。また、すでに土曜授業を実施している地域と未実施の地域では意識の差があるのではと感じる。そのことを踏まえた調査も今後必要になると思われる。

この総評では、前回、大きな反響を得た2014年3月調査「卒業生500名 中学入学直前意識調査」の後追い調査と、実際中学に入学して半年の「ケータイ・スマホ所有率」や、「中1ギャップ、入学前の期待と不安」が入学後どのように変化したのかについて特に論評したい。

1.「ケータイ・スマホの使用状況」について

今回の調査では、スマホ使用率が中学進学で飛躍的に高くなっているのがわかる。小学6年生では男女ともにスマホ使用率は6.0%だが、新中1生は2~3割の子がスマホを使用、進学で一気に増加している。前回調査で、中学入学直前の子どもの実に6割の子が希望していたスマホだったが、保護者の考えでは24.8%が入学したら使ってもよいと答えていた。この点では親の意見が通っている実態が読み取れる。

今話題に上っている、21世紀型学力では情報スキルICTを使いこなすことは「基礎力」と位置づけられているように、パソコンはもとより、タブレット、スマートフォン普及の流れは必然的であるように感じる。

むしろ、大きな課題は使用する機器ではなく、必要とする情報を的確に安全に得られる能力をどのように育成していくのかが急務である。前回も述べたように「電子機器を使用するときの“ルール”や“約束事”は、ネットによる犯罪や多額の金銭トラブル、SNSが介在したいじめ問題や友人関係などのコミュニケーションの問題などの重大さを考慮すれば「家庭でのルール作り」を確実に行うことは極めて重要であり、企業、行政、学校が緊密に連携し早急にこの課題解決に取り組む必要があると考える。

2.「中学入学後の学習に」について

新中1生に対する2問目は、「中学校に入学して、小学校に比べて楽しいこと、楽しくないことを教えてください。」という質問だ。楽しいことでは、「新しい友達などの人間関係」75.5%、「部活動のこと」74・0%の支持が多く、「先輩との関係のこと」も42.5%と比較的、高評価となっている。

楽しくないことは、「教科別の先生による勉強(成績)のこと」38.5%、「必修のダンス授業のこと」27.0%、「必修の武道の授業のこと」26.5%が上位に並んだ。この3項目はすべて、「楽しい」と答えた子より、「楽しくない」と答えた子の数が多くなっている。

前回調査の「子どもの期待と不安、保護者の心配」と照合しても、「楽しいこと」については、おおむね子どもたちが入学直前に期待していた通りの結果になっていることがわかる。特に、6~7割の子が期待していた「新しい友達、人間関係」「部活動」は今回の調査でも7割以上の子が「楽しい」と回答している。

また4割以上の子が不安に思っていた「新しい友達、人間関係」と「教科別の先生による勉強(成績)のこと」の2点の質問では、それぞれまったく違った結果となっている。「新しい友達、人間関係」で楽しくないのは、4.5%と低く、入学して不安が解消し、楽しい交友関係を築いていることが読み取れる。一方「教科別の先生による勉強」はやはり38・5%が「楽しくない」と回答しており、入学前の不安通りに実感していることが分かる。

義務教育の最終段階である中学校の授業について、入学したばかりの子どもたちの約4割が楽しくないと解答していることは大きな問題である。

この調査結果を分析することによって子どもたちにとって楽しく充実した授業となる改善のヒントについて考えてみたいと思う。

まず、「あなたが勉強をしていて嬉しく思うことはどんなことですか?」という選択肢方式の質問に対しては、小学生全体で見ると、「テストの点数がよかったとき」が58.3%と最も高く、「問題がとけたとき」(56.1%)、「先生や家族にほめられたとき」(52.3%)、「学習内容がわかったとき」(32.4%)がどの学年でも上位に位置づけられることはうなずけることだ。だがここで注目すべきことは、「仲間といっしょに調べたり発表したりするとき」(13.0%)、「勉強したことがほかでも役立ったとき」(10.6%)などの回答が学年が上がるにつれて高くなることだ。

また、「あなたが勉強をしていて嬉しく思うことはどんなことですか?」という質問についての自由回答よると、「自分の名前が漢字で書けるようになったとき」「友達や家族に手紙が書けるようになった」「本が読めるようになった」など、それまでできなかったことができるようになった、知らなかったことを知ったときなど主体的な学びを喜びと感じることの他、「授業のとき友達といっしょに発表してほめられた」「友達といっしょに勉強した」「お父さんといっしょに自由研究をした」など他者と協力や協働できた学を喜びと感じていることを特に注目したい。

学習に関して、子どもたちがどういうときに喜びを感じるかを知ることは授業改善を行うためには欠かせない。子どもは自我の発達にそってより主体的に行動することを求め、多くの課題を解決しながら成長していく。授業も発達段階に合わせて学習者の学びの欲求を満たしていいくことが求められる。

今話題になっているアクティブラーニングを含め授業改善の研究を深め、子どもたちの主体的な学びを導くとともに、学習者同士が学び合える授業設計を工夫することで、これからの教育のキーワード「自立」「協働」「創造」に向けた教育が一層進展することを願いたい。