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小学生白書Web版 2014年3月調査

【調査テーマ】「小学生の日常生活に関する調査」

9.まとめ
調査結果を受けて

学研教育総合研究所 客員研究員 髙橋良祐

調査のねらいにもあるように、近年様々なネット端末の普及にともない、青少年が手軽にSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)、オンラインゲームなどを長時間使用できる環境が生じ、そのことが生活習慣の乱れや新たないじめ、犯罪などに巻き込まれるケースが増加している要因であると指摘されている。

今回の調査は、この春に小学校を卒業し、新中学1年生となる全国の男女と、その保護者に、情報機器の使用実態と意識を分析したものであり、情報機器の使用に関する小学生高学年の実態がより明らかになってきたと感じる。

また、「外国語(英語)活動と中学の英語」「中学入学への期待と不安」についても、以下それぞれの項目についてまとめ総評とする。

1「中学生になったら使いたい」機器について
スマートフォンについては、14.6%の使用実態だった6年生が、中学生になったら使いたい機器として59.8%、約6割の子どもがその利用を希望している。このことは、6年生がスマートフォンに大変大きな魅力を感じていることを示している一方、保護者の意識は「使わせたい」が24.8%でしかなく、6割を超える子どもの希望とはかけ離れている。
情報機器の使用に関する親子の認識のずれが、後に生ずる子どもを巻き込んだ犯罪や問題を防げない要因の一つとしてあげられるのではないか。
2「男女差」について
使用している情報機器については、6年生男子は携帯・据え置きともにゲーム機器が高く、女子はゲーム機器より携帯音楽プレーヤーの使用頻度が高い傾向が見られる。
また、機能面では、6年女子は「メール」の使用が31.6%で、男子の12.8%と倍以上の男女差が出ている。さらに、中学生になったら使いたい機能では、男子は「ゲーム」56.8%、「動画視聴」35.6%に対し、女子は「メール」40.0%、「LINE」27.2%となっており男女で顕著な差が認められる。高学年の頃から、女子は友人とのコミュニケーションツールとして情報機器を使用したいとの意識が男子より高いことが推察される。
3「就寝時間とSNS等との関連」について
前回2013年の「就寝時間」の調査では、男子より女子の就寝時間が遅いという違いが明確に現れており、特に女子は小学5年・6年と学年が進むにつれて急激に就寝時刻の遅い層が増加しているという結果が示されていた。
今回の調査でも就寝時間が遅いのは女子で、現在も「メール」の使用率が高く、今後の「メール」や「LINE」の利用希望が高いことも踏まえると、6年女子が深夜まで起きている事実とSNSなどの使用時間などの実態とが深く関連していると推測するとこは容易である。
また、今回の調査のねらいにあるように、内閣府やその他各種調査や報道などからもSNSの使用頻度が高く長時間の使用になっている傾向は高校生から中学生、そして小学生高学年までに及び徐々に低年齢化してきていると指摘されており、今後注意深く検証するとともに速やかな対応をとる必要を感じる。
4「電子機器を使用するときの“ルール”や“約束事”」について
調査結果では、「厳密で細かいルールを決めている」が8.6%、「基本的なルールを決めている」が67.5%と全体の76.1%が何らかのルールを決めていた。一方、23.9%の家庭では「ルールは決めていない」ということだったが、「就寝時刻の遅い層」や「使用時間の多い層」では3割以上の家庭内ルール無しという結果だった。
近年の、ネットによる犯罪や多額の金銭トラブル、SNSが介在したいじめ問題や友人関係などのコミュニケーションの問題などの重大さを考慮すれば「家庭でのルール作り」を確実に行うことは極めて重要であると共に、企業、行政、学校が緊密に連携し早急にこの課題解決に取り組む必要があると考える。
5「外国語(英語)活動と中学の英語」について
小学校での「英語活動」の感想の結果では全体、男女とも概ね好評であることが伺える。特に、女子は他者とのコミュニケーションをより求める傾向が強く、英語を学ぶことについて男子よりも強い意欲を示している。
「英語の授業」の感想で注目されるのは「役立った」「好き」の項目で、公立以外に進学する児童の20%以上が「あまり役立っていない」「あまり好きではない」と回答したことである。これは公立に進学する児童と大きく異なっており、今後の小学校英語教育を見据え緻密に分析しなければならない。そして、児童が期待と不安の両面を持ちながら学ぶことになる中学の英語についても、生徒がより興味関心を持って積極的に英語を学び、主体的に英語でコミュニケーションを図るなど楽しく役に立つ英語教育を推進する必要を感じる。そのためにも小・中の連携した教育の推進が求められている。
2020年には東京五輪が開催される。より多くの外国人との交流やボランティアとして活躍が期待されるこの時代の子どもたちには、英語を含めた外国語を学ぶ動機付けとしても、生きた「英語」「外国語」教育に力を注ぐことが大切なことではないだろうか。
6「中学入学への期待と不安」について
いつの時代でも、小学校から中学校への進学については大きな期待を持ちながらも不安を感じるものだろう。
この調査で注目したいことは「中学校へ進学して不安に思うこと、心配なこと」の項目である。「新しい友だちなど人間関係」を不安に感じている男子は37.6%であるのに比べて、女子は50.0%の児童が不安を感じており、男女で大きな違いが現れている。
また、保護者も「新しい友だちなど人間関係」について約6割強の方が不安に感じている。思春期は心身の成長が著しい時代であり、多様な価値観や人間性にふれるとともに、大人や社会に対する興味や関心が高まり、その中で自己の確立に向けて悩みながら大きく成長する時期である。
特に、子ども達が中学校でのいじめ問題などへの不安を抱きながら新しい人間関係を作っていくことはたやすいことではない。この多感な時代を生きる子ども達を親や教師はもとより社会全体で、温かく、しっかりと見守りながら、子ども達が元気に希望と勇気を持って成長していけるよう社会環境や教育環境を整えることが必要であると感じた。