R.H.

()地球の歩き方 コンテンツ事業部 出版編集室 室長代理 兼 プロデューサー

1979年の創刊以来45年の歴史を持つ海外旅行者向けガイドブック『地球の歩き方』。2020年には新型コロナウイルスの影響を受け、旅行が規制され、書籍の売り上げが激減するなどの危機的状態へとなりましたが、学研グループにグループインし、(株)地球の歩き方を設立して2021年にリスタートさせました。以降、『地球の歩き方』は従来の海外版にとどまらず、さまざまな視点で書籍を企画・発行し、2024年にはテレビドラマ化もされました。そんな『地球の歩き方』の「今」と「これから」を聞きました。

コロナ禍での厳しい日々を経て学研へグループイン

まず『地球の歩き方』とは、どんな書籍ですか?

旅行者向けのガイドブックです。現在海外160の国と地域で約120タイトルと、国内16タイトルを発行しています。観光地の情報はもちろん、名店や穴場スポット、旅の注意点など実際に現地を取材して掲載しています。地域の歴史や文化といった情報が多いのも『地球の歩き方』の特徴です。今はスマートフォンでなんでも調べられますが、膨大な旅の情報を編集者が厳選して一冊にまとめていることに価値があると思います。若い世代では知らない人も多いかもしれませんが、日々仕事で出会う方々に「使っていました」「旅のバイブルです」と言っていただけるのは、本当にありがたいことです。私自身、学生時代はヨーロッパやアジアをめぐるバックパッカーだったので、いつも『地球の歩き方』が相棒でした。旅先で困ったときに見たり、時間があるときにぱらぱらと読んだり……。当時はスマートフォンがなく、インターネットもネットカフェに行かないとつながらない時代で、『地球の歩き方』が唯一頼れる手段。まさにお守りでした。

そこから作る側に?

そうです。自分が学生時代の旅で『地球の歩き方』とともに素晴らしい経験ができたように、「これから旅をする人に寄り添い、支えられるものを作りたい」と思ったのです。それで新卒で入社したのが、発行元であるダイヤモンド社のグループ会社・(株)ダイヤモンド・ビッグ社でした。

どういう経緯で学研グループに?

コロナの影響です。世界的に新型コロナウイルスが流行したことで海外旅行がほとんどできなくなり、売り上げも激減しました。そのため、海外のガイドブックを出せなくなったのです。ずっと開店休業状態だったのですが、それでも「コロナが収まったら海外へ行く人が増えるはず」「それまでにいろいろな情報を集めよう」「これまでと違う視点で書籍は作れないだろうか」と、編集室みんなで試行錯誤をしていましたが、最終的に事業継続が難しくなり、学研への事業譲渡が決まりました。そして、2021年1月より学研グループの新会社・(株)地球の歩き方の社員として再出発したわけです。

実務の幅も企画の幅も広がり、これまでにない企画が形になっている

学研グループに加わったことで何か変わりましたか?

会社は学研ビル内に入っているのですが、すべてが新鮮で「しっかりした会社」というのが第一印象でした。それまでは本を作ることだけで精一杯で、発行後の販売や広報活動を総合的に考えることがなかなかできませんでした。でも、学研グループには広報がいて、販売チームがあって、法務があって……と、それぞれのプロが仕事をこなしています。だから迷ったとき、困ったとき、いろいろな面で相談できる範囲が広がったのはとても心強かったです。

実務的にも学研グループに来て新しいシリーズを多く展開してきました。たとえば世界のグルメや城、ビーチなどテーマに特化した「旅の図鑑シリーズ」や、世界の地図をなぞって脳の活性化を目指す「旅と健康シリーズ」など、子供からシニアまでがユーザーの学研グループだからこそ親和性がより増した気がします。これらを実現できたことは、大きなプラスでした。変わり種としては、カプセルトイの中身を考えたり、お菓子のグミを作ったり。レトルトのカレーも作っていて、タイやエチオピアなどで食べる本場のカレーを再現しています。製品化までに何度も編集室で試食したので、現地の味に近いおいしさになっていると思います。こうしたタイアップ企画は、学研にライセンスチームがあったからこそスムーズに進めることができました。

近年では都道府県版や市町村版の『地球の歩き方』を出したと聞きました。

最初は東京オリンピックに合わせた東京版を出しました。でも、オリンピックの開催がずれて「ダメだ、売れない」と思っていたのですが、結果は大ヒット。コロナの影響で、たくさんの人が近場で楽しむことが多くなり東京都や近県の方が購入して使ってくださったんです。地元でも意外と隣の市や町のことって知らないんですよね。なので「すべての市町村を載せる」を原則とした都道府県版を順次出すようになりました。九州地方がなかったので、まずは『福岡』県版を検討していたのですが、できたのは全国初の市版『北九州市』でした(笑)。

「なんで?」と思いますよね。北九州市はもともと門司・小倉・若松・八幡・戸畑の5市が合併してできた街で、とても大きいのです。観光名所はもちろん、歴史あり、産業あり、名物ありで、調べれば調べるほどネタが出てきました。とても収めきれないと判断して、「地球の歩き方」初の市版へと切り替えました。2024年2月1日に発売し、既に4刷になりました。

ほかにも『ムー』や『ジョジョの奇妙な冒険』など人気作品や媒体とコラボレーションした『地球の歩き方』も出しています。私も『宇宙兄弟』(講談社)とコラボした『地球の歩き方 宇宙兄弟』という書籍を担当しました。つくばやフロリダや月!など作品に登場する聖地を観光名所的にガイドしつつ、宇宙開発の歴史や最新宇宙食グルメ情報なども押さえています。『地球の歩き方』のセルフパロディ本で、本誌と同じ作りにすることにかなりこだわりました。そのほか作者・小山宙哉先生や、実際に宇宙を旅した前澤友作さんへのインタビュー記事も載せています。後半は「旅の服装」「ベストシーズン」「旅のトラブル」など、『地球の歩き方』ならではのページを『宇宙兄弟』風にしっかり作りこんだので、ファンの方にクスっと笑ってもらいたいですね。先日SNSで元宇宙飛行士の山崎直子さんが紹介してくださったのですが、本当にうれしかったです。この本は(株)Gakken編集部に『宇宙兄弟』関連のお仕事をした方がいたからこそ実現できた企画です。そういった意味でもグループインしたことで企画の幅が広がったなと感じています。

旅の相棒であり続けるために、工夫と挑戦を続けていく

では、今後学研グループとして、どういうところを目指したいですか?

まずは『地球の歩き方』との接点をもっともっと広げたいです。先ほどのカプセルトイやグミもそうですし、『宇宙兄弟』のようなコラボ企画や『aruco』のようにあえて女子旅にターゲットを絞ったものなど、いろいろ試しています。そのうちのひとつというわけではないのですが、2024年に入ってテレビ大阪・BSテレビ東京ほかで『ドラマ 地球の歩き方』が放送されました。4人の俳優さんがそれぞれ『地球の歩き方』を持って別々の国を旅するのですが、テレビというマスメディアを通して認知度を上げるという点ではとてもよい機会でした。

いろいろな企画がある上で、本来の『地球の歩き方』は作り続けます。ただ、どこの国でも情報は日々更新されているので、紙媒体でどこまで追いつけるのかという点が大きな課題です。インターネットやSNSなどを使ったメディアミックス的なものも視野に入れながら、いつまでも旅人の相棒でいられるように工夫していくことが会社としての目標ですね。

©ドラマ「地球の歩き方」製作委員会
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©ドラマ「地球の歩き方」製作委員会

最後に、ご自身の目標をお聞かせください。

どんな形でもいいので書籍作りやものづくりには関わっていたいですね。思い入れのある『ハワイ』は、もうしばらく続けられたらうれしいです。国内版なら私のルーツである熊本県版を作ってみたいですね。さらにぜいたくを言えば、「地球の歩き方」がまたおもしろいことをしている!とみなさんに思ってもらえるような企画を生み出したいです。そして、そうやって作った本を相棒として、若い人にはどんどん海外を旅してほしい。やっぱりモニター越しに見る外国と、自分の目で見る現地はまったく違いますし、海外から見る日本も違って見えます。いろんな文化や考え方、価値観が地球上の至る所にあるので、それを多くの方に体験してほしいです。

R.H.

()地球の歩き方 コンテンツ事業部 出版編集室 室長代理 兼 プロデューサー

()ダイヤモンド・ビッグ社で『地球の歩き方』広告営業を経て、2012年編集室に配属。2021年に()地球の歩き方に入社。以来『地球の歩き方』を中心に、国内、『aruco』シリーズなどの編集を担当。学研に入ってからは新シリーズの立ち上げ(絶景名言シリーズや旅と健康シリーズなど)やコラボ企画、SNS運用にも注力している。

映画や音楽などのエンタメが好き。韓国ドラマはだいたいチェックしている。

※ご紹介した情報、プロフィールは取材当時(2024年5月)のものです。

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