T.Y.

右:(株)学研ココファン・ナーサリー 新事業推進部副部長

M.S.

左:みらいゲート秋葉原 施設長/保育士

『みらいゲート秋葉原』は、児童の主体性を尊重し、自らの行動をサポートするフリースクールです。不登校児は年々増加しており、2021年には約8万人の小学生が不登校であると文部科学省が発表しました。過去最多の数字となったこの翌年、不登校児支援にフォーカスしてオープンした施設です。多角的な子育て支援事業を行う、(株)学研ココファン・ナーサリーのT.Y.と、ここで児童対応を行う施設長で保育士のM.S.に話を聞きました。

小学生に特化したフリースクール

なぜ今、このフリースクール事業を立ち上げたのでしょうか?

ここはもともと、(株)学研ココファン・ナーサリーが運営する保育園だったのですが、千代田区が待機児童問題を解消したこともあってクローズし、新規事業のトライアルを行う場所にしようとプロジェクトを発足したのがきっかけでした。当初は、通所受給者証の認定を受けることに抵抗がある方や、公的支援を受けずに施設の利用を希望される方、不登校児も含め発達に困難のあるお子さまを対象にしてフリースクールをスタートしたのですが、発達支援に偏りすぎている部分がありました。本来、ここでやろうとしていた事業は、社会保障費によらない、保育園や学童以外のサービスだったので、もう一度スタッフと一緒に事業検証し、改めて千代田区の現状などの調査も行いました。教育委員会や自治体などとも話をした結果、不登校児が非常に増えていることがわかりました。それに対する千代田区の行政対応も行われていますが、限られた方しか利用できない、もしくは高学年しか利用できないという現状があり、改めて、小学生の不登校児にフォーカスしたフリースクールとして事業をリニューアルしました。学研のグループ会社である(株)学研エル・スタッフィングが中高校生向けの『WILL学園』というフリースクールを運営しているため、『みらいゲート』は小学生に特化することにしました。

どういう思いで児童を受け入れているのか、お聞かせください。

お子さまが心を開いてくれるまでの期間は、何でも受け入れてくれる存在も必要だと思っています。信頼関係を築いていくうえで、保護者の方もお子さまもマンツーマンの対応を望む方も多いので、そこは大事にしています。また、居場所を必要としている子が、ここを居心地のいい居場所と感じてくれることが、私たちの希望です。また、現在、入会しているお子さまは約40名となります。何らかの理由を抱えて学校に行けず家にいるお子さま、居場所を探しているお子さまが本当に多いということを、ここに入ってから感じます。ですから「こういう施設があるんだよ」ということを伝えていきたいです。

自主性を尊重することで生まれる、子どもたちたちの“やる気”

他のフリースクールとの違いはありますか?

先ほど申し上げた、小学生に特化したというところと、あらかじめ決められたカリキュラムではなく、お子さまたちの自主性を重んじているところです。他のフリースクールは、カリキュラムが1時限から4時限ぐらいまで学校の時間割のように組まれていて、それに沿って活動することが多いのですが、『みらいゲート』の場合、仮で決めてはありますが、あくまでもお子さまたちの自主性が最優先。自ら意欲的に活動をしたり発言をしたりすることが難しいお子さまたちが多いので、その子たちの自主性を大切にしています。そのなかから、 新しいことにチャレンジする意欲が出てきたというお子さまたちを、たくさん見てきました。

学校で先生とトラブルがあった子や先生が怖いと感じている子も多いので、ここでは〇〇先生ではなく、あだ名で呼んでもらっています。自己紹介するときに、「私のことは“みきちゃん”って呼んでね」と言っています。他にもすーさん、ちこちゃん、アッキーなど。プレオープンの際、職員同士で児童との対応を決めるときに、全員一致で決まりました。スタッフは4名で、全員が保育士の資格を持っています。なかに社会福祉士と図書館司書の資格を持っている者もいて、全員がお子さまの対応を行っています。

児童たちとの、具体的なエピソードが あればお聞かせください。

ここに来た当初は表情も硬かったり、顔色もすぐれなかったりした子たちが、『みらいゲート』での活動を通して、笑顔を見せてくれるようになったり、たくさん会話もしてくれるようになったりします。職員も含めてみんなでドッジボールなどをするのですが、顔を真っ赤にして楽しんでいる最中にお母さんがお迎えに来られたことがあり、「こんなに生き生きとした表情を見たのは久しぶりです」と感激されたときはうれしかったですね。ほかにも、こま回しやけん玉などの昔遊びは、ここに来るまではやったことがなかったというお子さまも多いのですが、朝の時点ではまったくできなかったのに、がんばり続けることで、お迎えが来る夕方にはけん玉ができるようになった子もいました。私たちが「がんばって!」と言い続けたわけではなく、その子がもともと持っていた“努力する力”が引き出されたのだと思います。一つのことができるようになることで、自信がつき笑顔に変わっていく姿を目の前で見られることは、大きな喜びですね。余談ですが、うちの職員もみんなすごくけん玉が上手になりました。

学研のオリジナルカリキュラムの「学研スポチャンくらぶ」をはじめ、さまざまな運動遊びを楽しむことができる。バランスボールやトランポリンなど、遊具も充実。
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学研のオリジナルカリキュラムの「学研スポチャンくらぶ」をはじめ、さまざまな運動遊びを楽しむことができる。バランスボールやトランポリンなど、遊具も充実。

『みらいゲート』に来ることで、児童にはどのような変化がありますか?

不登校児は、障がいや学校でのいじめが原因であることが多いといわれるのですが、昨今「起立性調節障害」といって、やる気がなかなか出ないというお子さまが非常に多くなっています。そうしたなか、ここに来て声を出したり体を動かしたりするうちにやる気が出てきて、復学したお子さまもたくさんいらっしゃいます。ただし、『みらいゲート』は復学を目指しているわけではなく、少し抽象的ではありますが、お子さまたちが 自分で意欲的に何かをしたいというやる気を引き出すことを目指しています。

好きなものや得意なものがある子に関してはそれをさらに伸ばすサポートを、それが見つけられない子に関しては、ここでのたくさんの体験を通して、好きなものや得意なものを見つけてもらいたいと思います。また、集団が苦手、コミュニケーションが苦手というお子さまに関しては、ここでいろいろなお子さまたちや職員と接することで、少しでも苦手意識が和らいでくれればと思っています。

サイエンス&アートのスペース。学研の図鑑「科学実験」や実験キットを活用して、探求心や知的好奇心の芽を育む。思い思いの表現を大切にしたアートを楽しむこともできる。
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サイエンス&アートのスペース。学研の図鑑「科学実験」や実験キットを活用して、探求心や知的好奇心の芽を育む。思い思いの表現を大切にしたアートを楽しむこともできる。

子どもたちにとっての居場所だけでなく保護者同士の交流の場も

『みらいゲート』に通うと小学校の出席扱いになりますか?

現在、出席扱い対象になっている会員はいます。出席扱い可否の最終判断は在席する学校長の判断になりますので、私が直接、希望される会員さんの学校を訪問し、交渉しています。その際、“学研が運営しているフリースクール”ということで、警戒心なくお迎えいただけるのはありがたく感じています。

不登校のお子さまたちは後ろめたさや不安な思いを抱えていることも多いのですが、ここに週2回通うことになってから、「僕は学校に行っている」と家で言うようになったというお母さまからの声も寄せられています。学校に行くことができない後ろめたさが消えて、気持ちに波があったのが安定してきたというお話もいただきました。

保護者への対応はどのようにしているのでしょうか。

保護者の方とは、2か月に一度は面談をするようにしていて、家での様子やここでの様子を共有し合うことで、その子にとって、今何が必要なのかを一緒に考えるようにしています。

面談を通じて職員が保護者の悩みを聞かせていただいたくこともあります。希望する方には保護者向けのセッションとして、臨床心理士や公認心理師が対応しています。また、懇談会という形で、保護者同士がそれぞれの悩みを共有し合う場を企画しています。ふだん、お子さまと24時間365日一緒にいる中で、少し離れる時間をとり、スタッフも交えて親御さん同士がゆっくり話し合える場になればと思います。

「学校」「家庭」に続く第三の居場所を目指す、みらいゲートのサポート例。子どもたちに対してはからだ、ことば、こころのサポートを行い、保護者からの相談にも対応する。
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「学校」「家庭」に続く第三の居場所を目指す、みらいゲートのサポート例。子どもたちに対してはからだ、ことば、こころのサポートを行い、保護者からの相談にも対応する。

今後の展望をお聞かせください。

オープン当初は近隣の方の通室が多いと思っていたのですが、実際には問い合わせも含めかなり遠方から通われている方も多く、中には片道2時間かけて通われている方もいます。それだけ、お住まいのエリアにサポートする場所がないということですので、『みらいゲート』というフリースクール事業を拡大していけたらと思います。多様なお子さまが安心して生活できる居場所として、今まで学校ができてなかったところもサポートできるようになりたいと願っています。現状、まだ多くの方に認知されていない部分もあるので、認知度のアップは直近の課題です。

ここで自信や楽しさを感じて、将来社会に出たときにたくましく生きていけるような、基礎の部分を培っていけたらいいと思っています。

T.Y.

(株)学研ココファン・ナーサリー 新事業推進部副部長

1995年、学習研究社に中途入社。立川支社配属にて、家庭向け訪問販売の代理店支援に従事。支社収斂後、合弁会社学研こどもの森にて学研グループ初の保育所運営を展開。その後、学研ココファン・ナーサリー立ち上げに携わり、学研アカデミー保育士養成コースやフリースクール「みらいゲート」等の新規事業立ち上げに従事。
お笑いとアメリカンフットボールをこよなく愛し、ライブと試合観戦は欠かさない。

M.S.

みらいゲート秋葉原 施設長/保育士

保育園の園長を務めた後、学研のフリースクール「みらいゲート秋葉原」に施設長として入職。施設認知活動や保護者対応、子どもたちの活動対応、プログラム内容の作成、InstagramやX(旧Twitter)のSNS記事作成などの業務を行う。
運転と映画が好きで、一人で出掛けることも多い。最近は手書きの筆文字で気持ちを伝える「伝筆」を勉強中。

※ご紹介した情報、プロフィールは取材当時(2023年10月)のものです。

サービス・事業紹介

小学生のためのフリースクール|みらいゲート秋葉原

キミの個性を、みらいのチカラに。 周りと違っても、何かがうまくできなくても、それはその子だけの個性。 安心して自分らしくいられる居場所。そしてその個性を活かして、この先の人生を歩んでいけるようなアシストをする場所、それがみらいゲートです。