Y.K.

(株)学研ココファン 取締役事業本部長

(株)学研ココファンは、(株)学研ホールディングスが展開する医療福祉分野の一翼を担うべく、2004年に創業されました。(株)学研ココファン・ナーシング、(株)学研ココファン・ ナーサリーなど5社を傘下に置き、高齢者住宅・施設の企画開発・運営、指定居宅サービス事業、人材養成事業を行っています。「サービス付き高齢者向け住宅」の開発・運営を事業の柱とし、全国に有料老人ホーム・介護施設・高齢者住宅など203拠点を展開。この会社を創業時から支えてきた、取締役事業本部長のY.K.に話を聞きました。

「科学と学習」になりかわる新たな事業として
立ち上げられた、高齢者向けの新規事業

(株)学研ココファンが創業された背景を教えてください。

私は1997年に入社し、学研の創業事業である『学習』と『科学』など学習教材の訪問販売を担当していました。1980 年代には月間発行部数が最大670万部だった学研の看板商品も、少子化の影響を受け非常に厳しい状況にありました。担当者としてさまざまな取り組みをするものの販売部数を回復するには至らず、閉塞感がありました。そのような時期に当時の若手のリーダー的な人たちを中心に、新規事業を検討することになったのです。何百という候補に挙げられたうちの一つが、高齢者の住まいや介護の事業でした。介護保険制度が2000年から始まっており、我々が高齢者向け事業を考え始めたのは2002年ごろ。実際に事業化したのが2004年ごろになります。

新たに、介護事業に乗り出したことに対する反響はありましたか?

学研はものづくりの会社というベースがありますし、私もその認識がありました。高齢者向けの事業としては、介護施設などを対象としたレクリエーションのときに使うアクティビティグッズのカタログ通販などは行っていましたが、実際に施設を運営することや介護サービスを提供することは、当時でいえば、学研の企業文化の中にはあまりなかったことだと思います。かなり思い切った提案だったと思いますし、私はそのとき若手社員だったので実際にはわかりませんが、反対もあったのではないでしょうか。

ご自身がこの事業に取り組むことにした理由を教えてください。

そのときの私は入社して5~6年目、若手から中堅ぐらいの年齢でしたが、新規事業を何かしなくてはいけないという思いや危機感を強く持っていました。新しいことをやりたいというモチベーションが原動力ではあったのですが、今考えてみると、なぜ高齢者向けの事業を抵抗感なくやれたかといえば、“公”のこと、世のため人のためになることが好きなのだと思います。もともと本が好きで、教育や学びにかかわりたいと学研に入ったのですが、これらも要は公のため、人のための仕事です。自分は何が好きなのかと考えたとき、それは世のため人のためになることだと。もしもそうでない種類の事業であったならば、あまり興味をもたなかったかもしれませんね。

そして第1号として高齢者住宅「ココファンレイクヒルズ」を立ち上げたのですね。

「1号店の施設の責任者をしたい人」と社内公募があり、手を挙げました。最初の高齢者住宅「ココファンレイクヒルズ」は、学研の創業者、古岡秀人オーナーが住んでいた邸宅の跡地に建てたものです。私は取り壊す前の家に入ったことがあります。成功した経営者が住んでいた邸宅ですからとても立派な家で、庭には松の木や高そうな石などもありましたが、かなり老朽化が進んでいました。それを取り壊して新規事業の建物をその跡地につくったというのは、象徴的な出来事でもありますね。

創業者の邸宅跡地につくられた、南千束にある「ココファンレイクヒルズ」
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創業者の邸宅跡地につくられた、南千束にある「ココファンレイクヒルズ」

ご自身に、介護や高齢者に関しての知識はあったのでしょうか?

社内公募に立候補しようと決めたときから勉強を始めました。当時はヘルパー2級が入門の資格という位置づけだったため、まずはそれを取得し、担当することが決まってからは一定の見識は身につけようと、介護に関する外部のセミナーを手当たり次第に受けました。実際に運営がスタートして半年や1年は、周りから「この人あまり経験ないな」と思われていたのではないでしょうか。しかし、施設の立ち上げからお客さまを獲得するための営業、毎日の運営に熱意と時間を使っている姿を見てくれたのか、人としての信頼関係ができていき、仲間意識も生まれていったように思います。


当時は会社としての展開構想までは私自身は考えておらず、1施設だけでしたが、ご入居者も順調に集まり、スタッフにも恵まれ、1年経過するころには「こういうふうにやったらいいのかな」という方向性は見えたように感じていました。

施設増設のペースが上がったことによる赤字化、
その脱却に尽力してくれた仲間たち

最初に施設を立ち上げた後、会社はどのように成長していったのでしょうか?

(株)学研ココファンの歴史を語るうえでとても重要な施設のひとつに「ココファン日吉」という施設があります。2010年当時、団地の建て替え事業として横浜市やUR都市機構などが共同で始めた、非常に大型で人気のあるコンペがあり、これに通ったことで建てたものです。(株)学研ココファンの住宅施設としては5棟目でしたが、このシンボリックな施設を手掛けたことにより、多くのメディアに取材していただいたり、行政機関や国会議員の視察があったりと、急激に注目を浴びることとなりました。これが変わり目となり、施設を増設するペースが加速し、一気に事業拡大が進行していきました。

「ココファン日吉」の外観
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「ココファン日吉」の外観

10棟、20棟と施設を増やしていくようになったことはさまざまな弊害や問題を引き起こしました。当時は自分の経験不足やマネジメント力不足もあいまって、施設をつくってもご入居者を集めることができず、人材の育成も進まず……という大変な状況でした。


入居促進がうまく進行しない一方、施設は毎月開設していったわけですから、損失が拡大し、会社の業績は非常に厳しいものになっていきました。

その事態を、どのように回復させたのでしょうか?

大きな赤字が2期、3期と連続で出ている状態でしたが、何か特別な解決方法があったわけではありません。医療機関やケアマネージャーさん、行政機関などに対して地道に営業をして知名度を高めていき、それが少しずつ実になっていきました。たとえば一つの施設が満室になると、その隣の施設も埋まりやすくなります。それがだんだん波及して、エリアでの競争力が高まり、会社全体も収益化するまでになりました。(株)学研ココファンの立ち上げから最初の10年間は、事業モデルを試行錯誤して固めながら経営的に健全化していったという時期だと思います。

ココファンが軌道に乗った理由は
「学研」のブランド力と、試行錯誤の賜物

(株)学研ココファンの特長は、どこにあると思いますか?

いくつかあるのですが、まずは「学研」という名前、ブランド力の大きさ、ブランドの持つ信頼度があります。私どものメインのお客さまは80代後半から90代くらいなのですが、その方々のお子さまにあたる“主介護者”は大体60代です。その世代の子育てといえば、やはり学研なのです。つまり、現在親御さんの介護をやっていらっしゃる世代の方々には、学研に対する信頼や、ブランドに対する安心感が確かにあるということです。何もないところから我々の事業がスタートし、なんとかここまでやってこられたのは、偉大な先輩方がつくられた学研のブランドのおかげだと思っています。安心感や信頼というのは、ご高齢者がサービスを選ぶ上で非常に重要なことです。
また、(株)学研ココファンのように異業種から介護事業に参入して事業を立ち上げる場合は、スタート時に基盤となる会社を、人材含めてM&Aなどで取得するケースが多く見られます。しかし(株)学研ココファンの場合はどこの真似をしたわけでもなく、高齢者住宅の運営の仕組み、介護サービスとの組み合わせ、多世代交流、学研版地域包括ケアなど、試行錯誤してつくりあげ、独自に今の形にたどり着きました。遠回りと思えるようなことでも、結果的に、当事者である自分たちで事業を一つずつ形にしてきたことが、今の土台になっています。お客さまをどう増やしていくか、お客さまのニーズは何なのか、先入観なく取り組んできたことが今につながっているのだと思います。

常に、ご入居者、ご利用者のニーズに真摯に向き合い続けている
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常に、ご入居者、ご利用者のニーズに真摯に向き合い続けている

不可避である高齢化社会を支えるインフラとして、
介護職の地位向上も目指す

(株)学研ココファンの今後の展望についてお聞かせください。

高齢者事業は、世間では成熟期に入ったとか淘汰の時代に入ったとかの意見もありますが、私はそう考えてはいません。むしろ今から15年後ぐらいが本番だととらえています。(株)学研ココファンが良質な高齢者住宅を増やし、事業を拡大すること、街づくりに貢献してさらなる成長をしていくことは、社会のためになると考えています。
(株)学研ココファンの仲間のなかには、立ち上げ当初、現場スタッフとして入社した人が今はエリアをまとめる責任者になっていたり、部長や役員になっている人もいたりします。当時自分より若かった人たちがどんどん中核となって活躍していることは、何よりも喜ばしいことです。介護業界はまだまだ社会的な地位や評価が上がりにくい現実がありますが、(株)学研ココファンは若手にもベテランにも多くのチャンスがある会社です。スタッフが社会的にも認められて、経済的にも満足が得られる、業界でナンバーワンの会社になりたいと思っています。

また、これまで(株)学研ココファンは住まい、介護や看護のサービスを提供してきましたが、
他にも高齢者の暮らしにはさまざまなお困りごとが出てきます。財産管理や相続、持家が空き家状態になっている、そして葬儀やお墓の問題などもあります。(株)学研ココファンの施設で安心して長く暮らしていただく「住み続けの支援」のためにも、こうしたお困りごとにこたえていくサービスも充実させていきたいです。

20年間この仕事に携わってきて、現在思うところを教えてください。

学研グループは「すべての人が心ゆたかに生きることを願い 今日の感動・満足・安心と 明日への夢・希望を提供します」という理念を掲げていますが、私たちの仕事は、お客さまもそのご家族も、地域住民の方も、働いているスタッフも、まさに「すべての人」を対象としたものです。文字通り「すべての人」に感動・満足・安心・夢・希望を提供しなければ、運営・経営を持続できません。お客さまも満足し、働いている人もモチベーションを維持し、会社も健全に経営できていることが、事業継続の前提です。事業を立ち上げたときはわからなかったのですが、学研という会社の成り立ち、いわばマインドのようなものがやっと理解できたと感じています。

Y.K.

(株)学研ココファン 取締役事業本部長

1997年に(株)学習研究社入社。支社および本社で主に学習・科学等の直販教材の営業(婦人組織の育成)を担当。2004年、社内ベンチャーとして創業した(株)学研ココファンに参画。2006年、第1号高齢者住宅ココファンレイクヒルズを事業所長として立ち上げる。以後、新規開発・運営推進・採用・教育・品質管理・M&Aを担当。現在、(株)学研ココファン取締役事業本部長のほか、(株)学研ココファン・ナーシングの取締役を兼任。

※ご紹介した情報、プロフィールは取材当時(2023年10月)のものです。

サービス・事業紹介

住み慣れた地域のなかで安心して暮らし続けられるための住まい「ココファンシリーズ」や介護・看護サービスで、高齢者の方々の心ゆたかな暮らしをサポートします。