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小学生白書Web版 2010年9月調査 調査結果

第3章 これからの学校での「学び」はどうなるか? ~「習熟度」3グループの比較をもとに~

石井久雄(明治学院大学准教授)

おわりに

 調査結果をまとめると以下のようになる(表3-2参照)。

表3-2.結果のまとめ

  好きな科目 嫌いな科目 得意な勉強法 好きな
授業スタイル
好きな先生 学校や勉強
への思い
勉強が
得意な子
算数、理科 体育 様々な勉強法
が得意
発展的な内容で関心を広げ、自主性尊重、長所伸長型の授業 分かりやすい授業をし、きちんと叱り、遠くから見守る先生 授業場面が好きで、学校の勉強は将来に役立つと認識し、登校意欲が高い。
勉強が
苦手な子
図工、音
楽、体育
算数 「問題をはやく解く」、「難しい問題をじっくり考える」ことに大きな課題がある。 基本的な内容を反復練習し、きめ細かい指示のもと、短所克服型の授業 一緒に遊び、やさしく、いつもそばにいてくれる先生 授業場面があまり好きではなく、学校の勉強が将来に役立つか分からず、登校意欲が低い。

 これまで「勉強ができる子」の学校生活の一端を垣間見てきた。それを受けて、これからの学校での「学び」を考えたとき、次のことが予想される。すなわち、「勉強が得意な子」と「勉強が苦手な子」から出される教育要求への対応をめぐって、教師は苦境に立たされていくということである。

 詳述すれば、「勉強が苦手な子」は、基礎基本を中心にして、きめ細かく丁寧に指導してくれて、苦手な部分を改善させてくれる授業スタイルを求めている。また、一緒に遊んでくれて、優しくて、いつもそばにいてくれる先生を期待している。反対に、「勉強が得意な子」は、発展的内容を中心にして、自主性を尊重してくれて、個性を伸ばしてくれる授業スタイルを求めている。また、分かりやすい授業を行い、生活指導もしっかり行い、自分自身を大人扱いしてくれる先生を期待している。このように、「勉強が苦手な子」と「勉強が得意な子」は、授業スタイルや教師像に関して、相反する要求を教師に突きつけていくといえる。

 もちろん、これまでも教室の中に、「勉強ができる子」と「できない子」が同居し、両者への対応に悩む教師の姿が指摘されてきた。しかし、今まで以上に教師を苦しめる変化が間近に迫っている。その変化の要因は、第1に、新しい学習指導要領が2011年4月から導入され、授業時間数が増え、学習内容が増加すること。第2に、新学習指導要領のなかで、「基礎基本の重視」という方針が打ち出されていること。第3に、2003年に学習指導要領の基準性が明確になり、いわゆる「歯止め規定」が撤廃され、発展的な内容を教えても良いことになったことである。

 3つの要因が複雑に絡み合いながら、「勉強が得意な子」(保護者も含め)は、学習内容が増加したこと、発展的な内容を教えても良いことを理由に、より一層知的好奇心を刺激してくれるような授業を求めてくるであろう。反対に、「勉強が苦手な子」(保護者も含め)は、「基礎基本の重視」を理由に、増加した学習内容を少しでも理解できるよう、大事な所は時間をかけてくり返し教えてもらえるような授業を求めてくるであろう。

 この時、教師は、相反する2つの教育要求に鋭く引き裂かれる可能性がある。そうした状況に対して、もちろん教師の努力が必要な部分もある。しかし、小1プロブレム、児童虐待、学級崩壊、いじめ、モンスター・ペアレント等々、そうでなくても小学校の教員が取り組むべき課題は多い。そうである以上、教師個人の力量だけに期待するのは、酷であろう。教師、学校への多様なサポートが、より一層必要になってくることは間違いない。

 2011年4月から全面実施される学習指導要領の改訂は、子どもたちの学力を本当に向上させるのか。置き去りになってしまう子どもはいないのか。これからも、子どもたちが営む学校生活をみつめながら、その行く末をしっかり見守っていくことが重要である。

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