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研究分野:教育情報研究分野

シリーズ「教育大変動」を語る

第2回

「義務教育の構造改革がもたらす課題」

脱画一教育政策がエリート教育を生む
古川:
 義務教育特別部会では、義務教育国庫負担金問題のほかにも、地方分権改革の推進と義務教育の構造改革という二つの重要なテーマについて話し合われました。先生は前者には賛成をし、後者には明確に反対をされておられます。その理由はどういうところにあるのでしょうか?
藤田:
 地方分権改革は、2004年度あたりから地方教育行政部会で検討されていて、大体その内容と同じです。義務教育特別部会でも意見の大きな相違は見られませんでした。教員の人事権をどこまで下ろすのがいいのか、検討の余地はありますけれど、基本的には権限はなるべく地方におろしていくという点で賛成しました。

 義務教育の構造改革に反対した理由は二つあります。第一に、免許更新制や教員養成の仕組みの改革、全国一斉学力テスト、学校評価の標準化、さらには、成果主義的な教員評価などの改革が進められていますが、そういう改革で教育がよくなることはありません。
 もう一つは、そういう問題の多い改革が根拠もなしに進められているからです。改革に積極的に取り組んでいることを示すために、いわば生け贄として必要のない弊害の多い改革を進めているということです。

 そういう改革を進めている人たちの関心や認識には3つの問題があります。一つは、校内暴力・いじめや少年犯罪などを「教育病理」だと言い続け、最大の原因は家庭や社会にあるのに、学校に原因があると言い、およそ関係のない改革を推し進めてきたことです。2つめは、「個人を尊重し、公を軽視する傾向が強すぎる」点が問題だと言いながら、その実、個人の利益を優先し、公をますます軽視する改革を進めていることです。3つめは、日本の教育、特に義務教育は全国一律の画一的教育だからだめだ、時代遅れだと言い、義務教育の本質を軽視し、その質を落とすような改革を進めていることです。実際の学校は、地域によって様々です。学習指導要領や学校設置基準は、内容や運用には改善すべき点があるものの、基本的には学校・教育の水準維持に貢献してきたとみるべきものです。

 日本の子どもの学力は、OECD・PISA※1でもIEA※2・TIMSS※3でも、韓国やシンガポールと並び世界のトップクラスにあります。英米をはじめ諸外国も、日本の教育を評価し、そこから学ぼうとしています。ところが日本の政治家や経済界の人たちは、日本の教育をだめだと決めつけ、歴史に逆行する改革を進めています。傑出した研究者や優れたリーダーがいない、創造性や独創性に欠けている、このままでは「知の大競争時代」に打ち勝てないなどと言い、早い段階からのエリート教育や学校の差別化を推し進めようとしています。

 こういう教育・学校の早い段階からの差別化や早期選別は、個々の子どもにとってはもちろん、優れたリーダーやエリートの育成という点でも、好ましくない、人材を浪費することになるとして、欧米でも20世紀半ば以降、アメリカや日本のように、高校までの教育を総合化し、選抜の時期を遅らせる方向で改革されてきました。そういう歴史的展開に逆行する、しかも合理性・効率性を欠いた改革が進められているのです。

※1 Programme of International Student Assessment。
生徒の学習到達度調査。実生活における知識の活用力をみる

※2 International Association for the Evaluation of Educational Achievement。
国際評価到達度学会

※3 Trends of International Mathmatics and Science Study。
国際数学・理科教育調査。算数・数学と理科に関する基礎的な知識を問う

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