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研究分野:教育情報研究分野

シリーズ「教育大変動」を語る

第11回

児童の学力を左右する「社会的背景」とは?

親の価値観が将来を決める「ペアレントクラシー」
古川:
 保護者が子どもにどこまでの進学を期待するかという「教育期待値」(図4)による学力差も顕著ですね。
図4 保護者学歴期待値別算数学力平均値
耳塚:
 大学院まで行くことを期待する親を持つ層の得点が相当に高いですね。一昔前とは違って、今は大学院卒というのは全く珍しくありません。しかし、それを望んでいるのは、親自身が学歴によって所得や社会的地位に影響が出る一部の高学歴なホワイトカラーの人たちです。

 長い間、学力はメリットクラシー(能力主義)で説明されてきました。しかし、今や親の願望や学歴期待の大きさが、子どもの地位を左右する社会になってきているという意味で、学力はペアレントクラシーで説明される時代になったと言えます。
古川:
 先ほど医学部の進学者は私立校の出身者が圧倒的に多いというお話もありましたが、なぜ変化が起こったのでしょうか?
耳塚:
 指導要領の変更に伴って、公立の学校では必要な学力が身に付かないのではと不安に思う保護者が増え、公立学校に対する信頼が低下したからです。学歴を重視する親は、子どもに高い学力をつけさせたい、それには公立学校システムを脱出しなければならない。進学塾へ通わせて私立校に入学させるには、ある程度の家庭所得が必要ですから、それを実現できる層も限定されます。これが、家庭の経済力と学力を結びつけている大きな要因ではないでしょうか。

 この現象は、大都市圏とその周辺部分で顕著な傾向です。しかし、県庁所在地のような都市の多くは、通塾が一般的になっていますし、私立中学校の数も徐々に増えてきています。ですから、現在大都市圏とその近郊で見られていることが、地方でも一般化していくだろうと思います。
古川:
 家庭所得の格差に関係なく、親が選べる学力向上の方策として、公立の小中学校での学校選択制も考えられますが?
耳塚:
 現在のところあまり有効な方策ではないという気がします。学校選択制は、学校間の競争による教育の質の向上を目指すものですが、民間と違って最低限の財政基盤は確保されますから、本当の競争は起こりにくいものです。また、親が選択する際の基準となる情報が、十分に開示されているとは言い難い状況もあります。

 教育バウチャー制度を導入するのがよいという議論もありますが、これには問題もあります。それは、政策が教育を公共財としてではなく私的な財として扱いだしていることです。公立学校システムを抜け出した親にとって不満なのは、税金とは別に私立校の授業料を払うこと。これを公私一緒にしたバウチャーにすれば、二重払いを免れるわけです。

 しかし、教育というのは公の財産です。子どもは将来の労働者であり消費者ですから、社会全体にとって公立学校のシステムから生み出される人材が必要なわけです。自分の子どもの教育をどうするかによらず、やはり公立学校を維持していくお金は負担しなければいけないはず。しかし、いまの議論には、自分の子ども、あるいは自分にとって利益になる仕組みは何かという観点だけがある。

 私は、公立学校の改革には、競争よりも、きちんとした成果の評価と、それを改善に結び付ける仕組みを充実させることが重要だと思います。

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